演目/三日月書店

観劇日時/10.1.30.
劇団名/弘前劇場
作・演出/長谷川孝治 舞台監督/野村眞仁
照明/中村昭一郎 音響/伊藤和人 協力/原島正治
装置/鈴木徳人 宣伝美術/デザイン工房エスパス
制作/弘前劇場
劇場名/シアターZOO

人々の日常の心の裏

 
ある一定の登場人物にはおなじみの場所、そこを訪ねる近しい人々、そして久しぶりに現れた人物。長谷川戯曲はいつもこのような閉じられた世界に集まる人たちの日常を描きながら、その人たちの裏側に隠れたささやかな、だけど本人にとっては重大な秘密の一端だけを予感させる。
今度の舞台はある地方都市の古本屋だ。その半地下の部屋は喫茶店を兼ねていて、本を読んだり近くの大学の教員や学院生・学生などが集まって打ち合わせをやったりしている。
店主(=高橋淳)は未だに和文タイプライターを使っているような、若いけども風変わりな人物だ。だからかもしれないが同居している女性(=小笠原真理子)も入籍していないばかりか、その女性はときどきフトいなくなったりする自由人であるらしい。
そのせいか集まる人々も常識人とは言いがたい人たちのようだ。自称前科二十三犯という無銭飲食常習犯(=福士賢治)は、日常では逆に普通人のようだ。誰も特別視しない。
その娘で高校教員(=国柄絵里子)は、同僚・中本(=林久志)との婚約で、中本の父(=長谷川等)が、常習犯である父の存在に躊躇するのを知っている。
そのほか何かに怯えているのか、そういう性格なのか不思議な大学生(=田邉克彦)や同じ研究仲間の助手(=濱野有希)と学生(=平塚麻似子)。その指導講師(=柴山大樹)、自称探偵(=永井浩仁)たち。
彼らが営む普通の何気ない日常生活が微細に亙って、しかも微かな謎を含んで描写される。そこには人々の意識の底のあるマグマが感じ取られるのは、平田オリザの作劇術に共通するところがあるようだ。