■■編集後記■■


 
☆ 想像力の不足        10年2月20日
25号掲載『空の記憶』の記述中「アンネの脚の斑模様」の違和感について書いた。
最近(10年2月20日)発行された演劇雑誌『風』に中山豊氏が「アンネの足は最後まで死人の足だった」とお書きになっている。
そうだったのか! この不可解な脚の斑模様は死斑だったのか……それに気が付かなかった僕は何と想像力が欠如していたのか!
少し弁解すると、僕は「死斑」の知識はあったが、本当の死斑は見たことがない。だからあの脚を見てもすぐ死斑に結びつかなかったのだろう。
調べると、死斑は横たえた身体の下側に鬱血する結果だということだ。すると脛だけに出るのは不自然ということにならないか?
でもそれは理屈であって、一つの象徴だとみれば良いわけで、やはりそこに思いが到らなかった僕の不明でしかない。


☆ この時期に観たその他の舞台
『姫』       シアター・ラグ・203
1月13日 ラグリグラ劇場   
『深川市民演劇祭』上演の各劇団7作品
   2月7日〜3月14日 深川文化交流ホール「み☆らい」
『想うは君のことばかり』  怪獣無法地帯
2月27日 レッドベリースタジオ


☆ 報告一つ
 北翔大学短期大学部人間総合学科舞台芸術系の発行する舞台芸術通信『PROBE』(第4号10年2月発行)に,『観劇片々』というタイトルで、『続・観劇片々』08年10月〜09年9月の記事から、純道産の舞台を選んで再構成した拙稿が掲載されました。


☆ 演劇界の巨塔・井上ひさし氏逝去する。
「むずしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに、書くこと」という言葉を残して、ここ40年ほどを走り抜けた井上ひさし氏が亡くなった。この言葉は演劇の基本である。

ラーメン評論家         10年4月18日
4月18日の北海道新聞に、ラーメン評論家・大崎裕史氏の紹介記事が載っていた。これがとても面白いので要点だけ紹介しようと思う。
札幌は競争が激しくて行く度に新しい店が数多くできていて食べる店に迷う。
流行に敏感で新しいことに挑戦する店主も多い。
ラーメン文化を育てる機運に乏しい。ブログは厳しい批判が目に付き地元メディアが取り上げる回数も少ない。
食べたことがないラーメンがある限り食べないと気が済まない。
ラーメンは好き嫌いが非常に分かれる。自分が美味しいと思っても他人はそう思わないこともあり、そこが難しいし面白いところ。
さて、これの何が面白いかと言うと、この「ラーメン」を「芝居」と置き換えると、すっかり当てはまるからだ。
前半の3項目は、札幌ラーメンに関する評価だけども、後半の2項目は全ての「ラーメン」つまり「芝居」そのものに当てはまるのだ。


井上ひさし氏の言葉から思い出したこと。
表現(=芸術)全てについて言えることだと思うけども、鑑賞する人が感動する要素が三つあると常々考えていました。
先ずは「テーマ」です。自分が鑑賞している作品は、作者が何を訴えているのかが感じられなければ意味がありません。でもそれをあからさまに出されるとそれは講演か演説になってしまいます。裏を読み取れることが条件で、これを僕は縦の感動と命名します。
二つ目は面白いことです。エンターテインメントの大事な要素です。面白くなければダメです、鑑賞するのが苦痛になります。僕はこれを横の感動と命名しています。
そして最後に、観る人が作者の思惑に関係なく自由に感じ取れることが肝要です。様々な解釈に耐える多様性です。奥の深さです。交差の感動でしょうか。これを僕は深読み、あるいは誤読と称しています。
だから優れた表現(=芸術)とはこの縦と横との感動が巧く絡み合ってさらに観る人が深読みするという受け取り方ができることが大事だと言えます。
改めて再確認しながら、その思いの深さに慄然とすることしばしばであります。