演目/それぞれ

観劇日時/09.12.23.
劇団名/F.A-muse
公演回数/第2回公演
脚本・演出/江田由紀浩 舞台美術/ミュージカル工夢店
スタッフ/家納亜美・田中有紀・川井由衣・石川宏香・堀井麻稀・荒井穂波・篠永早姫・青木大地・石丸花菜・内田詩織・山谷瑠華・深津好恵
劇場名/深川市文化交流ホール「み☆らい」

蝶になる蛹の不安

 
5人の女子高生のグループはまもなく卒業の時期である。舞台は荒涼とした街角、あるいは荒野の一隅……卒業を目前にして彼女らは進路に自信がない、というかどっちへ行ったら良いのか漠然とした不安に迷走している心象風景の象徴と見える。
アカネ(=万代美月)は少々焦り気味だが、実直に方向を探している。ミドリ(=中嶋彩華)は一番不安定で高いところから地上を覗き込んでみたりする。
アオイ(=深津尚未)は元気な常識人、モモ(=川井里保)は大人しいお嬢さん、そしてルリ(=川幡香奈)は昆虫が好きな天然系の変わり者。
いずれ、この5人もまもなく孵化して蛹が蝶になる時期はすぐそこまで来ているのだが、楽しく忙しく雑多な高校生活が今にして思い出される。そして蜘蛛に生血を吸われる蝶の運命も妄想されたり……
これらのシーンにクラスメート・チョウ・男・父親(=植田拳太、そして先生・クモ・少女(=知久彩七恵)がコメディリリーフを演じる。
5人の彼女らは相変わらず、どっちの方向が良いのか決めかねている。だがついにその時は来る。きっぱりと5人はそれぞれの方向へと歩み出るのだ。
青春の不安と希望というよりは、むしろ不安の要素の方が大きく暗い時期を強調するのだが、それを廃墟のような舞台装置が一層、強く印象づける。
おそらく現実は不安だけの時期ではないと思われる。その部分だけを拡大してみせたところに、この集団というか脚本の視点がある。
前作『いろいろ』に較べて比喩的な表現の部分が大きく、それだけ心の内部に篭った内省的でパッションの低い舞台になったようだ。
一番の問題は、全編に亙って状況描写が主体で感傷的であり、ドラマが深まらないことだ。前編に当たる『いろいろ』もその要素がかなり強かった。この『それぞれ』は後編に当たると思われるのだが、特にその印象が大きい。
この二つの話を合体させて、一人一人のドラマとそれぞれの人物の関わりのドラマを深め、時間が進展するように再構成すると良い芝居に成長すると思う。
蛹(=セーラー服)の少女たちが、蝶(=華やかでカジュアルな私服)へと変身するラストシーンは視覚的に面白い素敵なアイディアである。