演目/青森県のせむし男

観劇日時/09.11.28.
劇団名/風蝕異人街
上演回数/第39回公演
作/寺山修司 演出・照明・装置/こしばきこう
音楽/MIKI 協力/黒桝朋哉 
制作/実験演劇集団「風蝕異人街」
劇場名/札幌・中央区・アトリエ阿呆船

前近代の血の悲劇

 
このオドロオドロしい物語には、『風蝕異人街』の、粘液質の演技と独特のエロキューションによる台詞術が性に合っているらしく、個性的な舞台効果を魅せる。
 狭い舞台、おそらく間口6メートル奥行き3メートルくらい、タッパは3メートルもない真っ黒の布で囲まれた洞窟のような空間、そこに盛り上がるくらいの枯れ葉が敷き詰められこの土俗的な物語が展開する。
 たぶん明治の末期、青森県の資産家の女中・マツ(=平澤朋美)が当主の手込めに逢って男児を出産する。資産家は外面を装い人を介してその子を亡きものにしようとする。だがその依頼された人は哀れに思って一命を取り留めて育てるが、その子はせむしであった。それから30年……
 当主の没後、全資産を相続した元女中・大正マツは、贅沢三昧の日々である。若い男を優遇するのは、自分の息子を探しているのではないのかという噂が立つ。
 そのころ、台所に入った若い男が捕まるが、いつものように歓待し、居心地のいいまま、その若い男・松吉(=三木美智代)は居着く。やがて知ってか知らずかマツと松吉は、松吉の拒否にも関わらず男女の仲になっていく。
 気性のよい松吉を好きになった女学生(=李ゆうか)は、すべてを知りつつ哀しい。
 このような「生と性」との存在自体の混沌とした悲劇を、グニャリとした感覚で描き出す、『風蝕異人街』独特の舞台は今回、作品を得て、その魅力を充分に引き出した。
 全体が、女学生のナビゲーションというか狂言回しで進行する一種の叙事詩のような作りで劇っぽくないのが食い足りない。この表現方法で全編を演じたらどうなるか? 期待したいところである。
 そのほかに宇野早織・新井正美の二人が様々な役で出没し舞台に幅と奥行きを演出する。