演目/エンバーズ

観劇日時/09.11.19.
劇団名/シーエイティプロデュース
上演形態/旭川市民劇場11月例会
原作/シャーンドル・マーライ 
脚本/クリストファー・ハンプトン
翻訳/長塚京三 演出/板垣恭一 美術/朝倉攝
劇場名/旭川公会堂

心の闇を追う一人芝居

 
1940年、ハンガリーの片田舎の古城で41年ぶりに旧友・コンラッド(=益岡徹)を待つ75歳の退役軍人・ヘンリック(=長塚京三)。ヘンリックは41年前、突然姿を消した親友・コンラッドに対してずっと悩み続けた疑問があった。
 それはコンラッドが狩猟にかこつけてヘンリックを銃殺しようとしたのではないかという疑惑、それとコンラッドに紹介されて熱愛したが10年ほどで亡くなったヘンリックの最愛の妻・クリスチナがコンラッドと不倫関係にあったのではないかという疑惑。そしてこの二つのことに重要な関連があるのではないのかという疑い……
 ヘンリックは今ではもう愛憎共に一切ないと言うが、この真実を了解しなければ死にきれない思いで生きている。
 結局、コンラッドは真実を話さないまま去って行ったのだが、このヘンリックのこだわりの心情を受けるコンラッドはほとんど声を出さない芝居だ。
 最初と最後にヘンリックのすべてを知る乳母のニーニ(=鷲尾真知子)も出てくるが、全編ほとんどがヘンリックの一人芝居のようだ。だからこの芝居はもしかしたらヘンリックの死に切れない妄想かとさえ思ってしまう。
 事実、「北海道新聞」の記者の質問に演出の板垣恭一は、長塚さんも「この物語自体、ヘンリックの妄想かもしれない」と言っていると答えているのを後で知った。
 タイトルのエンバースとは残り火であり、つまり疑惑を抱いたままでは死に切れないということだろう。またエンバースには「恋の残り火」という拡大語義もある。
 一種のミステリーとしても読める一人芝居同様の密室劇としては緊迫した舞台ではあるが、二人とも老齢を作りすぎた不自然さが引っかかる。今から70年も前の40年代ころの75歳は、このようなものかもしれないが、あまりそこにこだわると逆にリアリティがなくなってしまうような気がした。