演目/贋作者

観劇日時/09.11.14.
劇団名/千年王國
作・演出/橋口幸絵 舞台監督/尾崎要・佐々木祐也
舞台美術/高村由紀子 照明/青木美由紀 音響/大江芳樹
大道具/アクトコール 小道具/遠藤有紀 
所作指導/西川之恵
衣装/アキヨ・松下奈未 衣装進行/徳村あらき 
美術品制作/多数
演出部/かとうしゅうや そのほか多数
劇場名/札幌・琴似・コンカリーニョ

偽物の自由と孤独

 
今から7年前に旧コンカリーニョでこの千年王國の「贋作者」を観た。そのとき僕は北海道に来て間もなくだったので劇団も役者もほとんど馴染みがなかった。
 けれども、骨太でスケールの大きいこの芝居と、兄・清一郎を演じた小林テルヲに強い印象を受けた。
 だから今度再演をするという話は魅力的だったのだ。話の芯はほとんど変わっていないけれども印象は大きく違う。
 初演は、絵画の偽物作りという行為が開き直ったスケールの大きさを感じさせたのだが、今回は贋作者が自由な精神の持ち主であると同時にアイデンテテイを失った魂の孤独に苛まれるという面が強く感じられた。
 それはおそらくその贋作者・雁次郎を演じた立川佳吾のキャラクターによるものが大きいのじゃないかと推察される。
 時は明治維新直後、加納派の大御所の次男に生まれた雁次郎は、妾腹のため世を拗ねて女郎・吉野(=榮田佳子)の部屋を自室同様に使い、弥市(=堤沙織)雅朝(=赤沼政文)を手下に使って贋作家業に精を出している。
 一方、嫡子児の清一郎(=梅津学)は正統派の絵師として着実に名をなしていく。
 明治維新自体が偽りの日本じゃないのかという視点、大富豪の娘・ミツコ(=村上水緒)は骨董商として贋作の売買、女性であるが故に世間から相手にされない女性記者(=坂本祐以)は贋作を暴いて大ニユースをスクープし、初めての女性新聞記者として独立したい。
 兄・清一郎は自分こそ先代の嫡子ではなく金で買われた貧乏人の子供であり、雁次郎こそ妾腹ではあるけれども本物の父親の血を受け継いでいることを知って絶望し自害する。
 すると掌を返したように、実の母でない清(=佐藤素子)は雁次郎を後釜に据えようとする。
 どこもここも偽物だらけだ。雁次郎は清一郎の名を使って本格加納派の絵師として再出発する。だが果たして……
 堂々たる舞台セットが回されて展開し、吉野の女郎部屋であると同時に雁次郎の画室と清一郎の静謐な画室が交互に現れる中に、様々な登場人物を重堂元樹が演じる。
 ところどころで現れるロック調の音楽とそれに合わせるような狂的なダンスを踊る雁治郎たちは、彼らの心の内を表しているのだろうとは思うけれども、踊りながら言う台詞はほとんど意味が聞き取れない。それはそれでいいのかもしれないが開幕冒頭ではちょっと引かされた。後で効果がわかる仕掛けなのだろう。