演目/いろいろ

観劇日時/09.11.3.
劇団名/ F.A‐muse
監修/納谷真大 作・演出/江田由紀浩 
舞台監督/菊地清大 
舞台美術/藤村健一 舞台美術助手/宮田哲自
音響/池田憲昭・中川美幸 照明/黒川英莉子・本山佳典
衣装/新田佳代 メイク/寿福愛佳 
制作/桜庭忠男・佐藤自真・吉田圭二郎・胡麻埼奨・原聡
劇場名/札幌・中央区・シアターZOO

岐路に立ったときの積極的な思考

 
高校生が作った劇団、しかも学校の部活ではなく普通の劇団として、NPO法人深川市舞台芸術交流協会の全面的支援によって自立した劇団である。ただし「高校生劇団」という制約はついている。そこがユニークでもある。
 さてその F.A‐museが、北海道文化財団の招聘によって札幌公演が実現した。今年の2月に深川市内で旗揚げ公演として上演した『いろいろ』の再演である。
 だが半年以上が経ってメンバーの出入りもあり、配役を変更したり登場人物を増やしたりしたのだが、基本は変わらない。
 中学時代の親友がそれぞれの高校に進学したあと、ときどき集まって近況報告会を開いて旧交を保っている。そのある日、ミドリ(=深津尚未)の部屋にアオイ(=中嶋彩華)たちが集まったときの事件である。
大人しいはずのモモ(=万代美月)がなかなか来ない。モモと一番の親友であったはずのアカネ(=川井里保)との間に確執があったらしい。その顛末が描かれるが、それは等身大の女子高校生の生態でもあると言えよう。
 巧みな作劇術は、さすがにプロの手になったものだと思うが、これは決して作家が勝手に創ったものではない。脚本作りから劇団員たちが集団討論して、彼らたちの日常のさまざまな話題を集約して脚本化したものである。
 タイトルの『いろいろ』というのは、モモが言う『もっと、いろいろ自分で決めなくちゃ。』という台詞に代表されるように、未成熟な彼らが、すべてのことに広く深く考えようとする10代後半の積極的思考への自覚が表されているようだ。
 だから「いろいろ」という台詞が、試行錯誤の岐路の表現としてこの青春物語のキーワードになって何度も出てくるわけであろう。
 日常的なズッコけたやりとりが、いかにも彼女たちらしく軽やかで微笑ましいものがあるが、それもまたリアルな生態描写なのであろう。
それらを含めて、全体にわざとらしくなく嘘っぽくなく演じられていたと思う。でも実際に今の高校生たちの日常に深く接した経験のない僕は断言できないけれども、少なくてもごく自然に舞台上で生きていたとは感じられた。
 天然のルリ(=川端香奈)の兄・ケンキチ(=植田拳太)の素直な愚かしさと、その兄に関わる新興宗教のド派手女・壷内ミキコ(=知久彩七恵)とのやりとりは、いささか現実離れしているが、これは最近流行の中身のないお笑い芸能の影響が強いと思われ、だからか逆にこのシーンは、おそらく演劇になじみの薄いと思われる今日の観客たちには大いに受けていたのだ。
こういうギャグの連発も一概に悪いとは言えない。白けない程度に巧く構成することによるエンターテインメントとしての味付けは一つの魅力ではある。
 ルリの兄が買わされた壷に、録音装置が仕込まれていたらしく、確執状態にあったモモとアカネの本音の声が再生されることによって、事態は急速に収束するという結末はちょっと出来過ぎかなとも思われ、さらにこの録音が長すぎるという欠陥があったが、総じて悩ましい青春の「いろいろ」と思わざるを得ない彼らの状況が、リアルにそして7人の個性が豊かに表現されて爽やかに描かれていたのであった。