演目/アイ・ワズ・ボーン

観劇日時/09.10.30.
劇団名/札幌北陵高校 演激部
作/にへいこういち 演出/工藤早紀
音響/林幸郎 照明/吉田理乃 舞台/野口紗矢
劇場名/札幌・中央区・かでる2.7

過激な高校演劇

 
高校生(=田名辺祥子)が妊娠した。それも相手は誰かも分らない。自殺を考えて公園のベンチで思い沈んでいると、通りかかったのが二人のオバチャン(=笠井美沙・船越都)である。彼女たちは魔女に扮したコスチュームプレイの会の帰り道である。
これが最初、魔女を主題にした音楽を聴きながら我が身のありよう考えていた高校生妊婦の想いとリンクするという巧い構成になっている。
お節介好きなオバチャンたちは、救急車(=櫻井健作・滝ケ平愛美・工藤早紀)を呼ぶが、高校生妊婦は拒否する。死を思っているのだ。
さらに連絡を受けた病院は、すべて受け入れを拒否してたらい回しにされる。
オバチャンたちは強引に緊急救急病院へと運び込むが、もちろん好奇心満々でお節介好きな二人は、緊急代理保護者を名乗って割り込んで付き添う。
困惑する救急病院の医師(=前山立瑠)と婦長(=午来有彩)と看護師(=山本里菜)。だが医師は急用にかこつけてさっさと逃げ出す。
医者がいないと責任者が居ないので、看護師は急遽、歯科医師(=高橋大樹)を連れ込んでくる。この辺は大袈裟でSMっぽい表現で笑いをとる。
一方この病院には家庭の事情で寂しい女子高校生(=長谷川佳澄)が懐妊検査と称して入り浸っている。看護師たちは一見突き放していながら、心の芯は暖かいのだ。
やがて二人のオバチャンの叱咤激励と、残って高校生妊婦の家庭事情を演じることで、この子の心の闇を洗い出すために協力する救急隊員たちとで、高校生妊婦は出産を決意する。
そしてやがて自分の手で我が子を抱いた高校生は、親子二人で生きる決意をする。
そこで終わったかと思いきや、翌日、また二人のオバチャンが現れて、「どうせあんたはその子を育てられないのだから子どもの居ない自分が貰っていく」と宣言する。
これはオバチャンたちが考えた逆療法だったのだ。そこへすっかり心が離れていたと思い込んで素行が乱れていた、その遠因だった実の母親から電話がきて大団円となる。
結局はハッピー・エンドとなるのだが、高校生の妊娠から出産場面まで、実際に産院に取材したリアルな描写が続く。高校演劇としては、おそらく僕が初めてみる題材ではなかろうか?
おそらく高校生の妊娠というテーマやサブテーマは今までにもあったのかも知れないが、ここまで深く深刻に迫ったのは驚異であった。
しかも重苦しくならないように全編喜劇タッチで描かれているのだ。その辺は現代っ子得意の軽い乗りで、しかも二人のオバチャンに象徴されるように実にリアルな存在感があったのだ。これは高校演劇を超えているのじゃなかろうか?
もともと僕は、高校生は心身ともに一つの人格を持っていると考えているので、このくらいの演劇が出ても別に驚くほどのことはないと思うのだが……
一つ気になったのは、新生児の父親が誰か判らない行きずりの中年男だったということだ。これがこの少女・母親と新生児の将来にどういう影響があるのかなと想いながら、大きな衝撃を抱えて席を立ったのであった。



  10月の舞台から 

姫            Theater・ラグ・203
ラストの詰めがいささか甘いが前半のサスペンスが効いているエンターティンメント。

コバルトにいさん          イナダ組
サスペンスに彩られた哀愁のエンターティンメント。

アイ・ワズ・ボーン      北陵高校演激部
超高校級の悲喜劇。