演目/

観劇日時/09.10.7.
劇団名/Theater・ラグ・203
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸 音響OP/田中玲枝 照明OP/瀬戸睦代 宣伝美術/久保田さゆり
劇場名/札幌・豊平区・澄川・ラグリグラ劇場

鮮やかなドンデン返し

 
貧乏臭い6畳ほどの安アパート。リアルに造られたその部屋は何かを予感させる。男・石崎安夫(=村松幹男)が帰ってくる。彼は明らかに屈折している。焦慮感を感じる。
押入れを開けてみたり、何か重大な秘密があるのかもしれない。何かを恐れているようにも見える。
 女・谷岡奈津美(=斉藤わこ)が訪れる。彼女は飲み屋のホステスである。たぶん彼に岡惚れしていて、この部屋の鍵も持っているという仲だ。
 製造業の派遣斬りにあった彼は、生活もままなら無い。彼は10年前までは売れない役者でもあったのだ。
2週間ぶりに訪ねてきた彼女は、愛する彼の異常な態度に疑問を抱く。最近このあたりでは凶悪な通り魔事件が頻発しているのだ。彼は演技に託して巧みに彼女の追及を逃れる。
 一種のサスペンスの様相を見せて期待が持てる。多くの謎を残して暗転、舞台は後半へと移る。
そこで話は突然、一転する。「姫」という得体の知れない女性(=湯澤美寿々)が登場する。ここから物語はフアンキーなメルヘンへと急転調する。
 彼もなぜか「姫」の語る別世界の架空物語に同調する。訳が分からない彼女・奈津美。もちろん姫の存在など容認できるはずもなく疑惑は深まる。しかし肝心の彼は姫を信じている。たぶん姫とは、少し心の曲折した女の具体化であろうか。
 男・安夫はそれを信じているというか、今の状況では信じざるを得ないというか、彼はそういうものを信じる人なのだ。
 という三者三様の思い入れが重なって前半と後半との繋がりがどうなることかと思いきや、ラストにいたって一気呵成にハッピーエンドに収束する。
ネタバラシになるので詳しいことは書けないが、サスペンスからフアンキー・メルヘンへ、そして人情物語へと見事な転換だ。ほんとはもう一捻りが欲しいかなって思う。あまりにあっさりと片付きすぎて、アレって思う呆気なさだからだ。
前半は、斉藤わこの緊張と、演技を意識しすぎたわざとらしい演技でテンポが粘つき、少々だれる感じがする。
だが後半に入って姫の登場で俄然、舞台は活性化して巧く展開した。
シアター・ラグの作品で一回の観劇で、こんなに分ってしまういわば娯楽作というのも珍しいのではないか。イヤ村松戯曲の多面性の大きな一例であろう。『E.T.』とか『乾杯』とかの系統になろうか?