演目/観念してくらさい

観劇日時/09.10.4.
制作/AND+「制作委員会」
作・演出/山田マサル
照明/前田ゆりか 舞台装置/上田知  音響・宣伝写真/奥山奈々 音響OP/ワタナベヨヲコ
制作統括/亀井健 演出協力/江田由紀浩
劇場名/札幌市・中央区・BLOCH

すべて「観念してください」という現実状況

 
作者・山田マサルがあるとき食事をしていると、隣席の若夫婦が交わしている会話は、「このニュースを知っている?」という話題から「中身の問題ではなく、その新しいニュース」を知っているかどうか? ということに話題の中心が移っていったということでした。
 その間、連れの子供は話に入っていけず、黙々とハンバーグを食っていたというのです。
 話題が途切れた時、男が「なんか楽しいことないかな」と言い、そのとき子供が男の方を見たのが印象に残っていたといいます。そしてそれが、この話を創るきっかけになったそうです。
 つまり作者は「何かが静かに狂っている」「何か取り返しのつかない感じがする」とも言っているのです。
 舞台はエピソードの積み重ねのようなもので、取り留めて話題が繋がっているわけでもなく、かといってそれぞれがバラバラでもない。
 特別に因果関係のある話が連綿としているわけでもないようだ。しかし一つ一つの話題は、閉塞感と焦慮感とに満ちていてまさに、「この現実を、観念しろ!」という感じだ。それを「くらさい(ください)」と斜めに肩すかしで言うのだ。
 同棲する女(=吉田奈穂子)が死んだかもしれない、男が呼んだ救急車の男たち(=江田由紀浩と日替わりで亀井健・ほか)は民間の営業救急車で、患者に薬物を注射して、おまけに請求書を突きつける。
 レンタルビデオ屋(=ツルオカ)は、売れ筋のCDもDVDも無いのに大威張りで客もイラつく。
 市役所は市民のニーズに答えようとしないか、答えるフリだけする。
 帰国子女である英会話の女教師(=小島達子)はエロ女だ。生徒は発音障害がある。
 これらの取り留めのないエピソードが取っ替え引っ替え繰り返される。それら殆んどは、あくどいほどの性描写で綴られる。性行為だけしか残っていないのか、と正に「閉塞」と「焦慮」の噴出だ。
 しかしこの舞台も状況描写だけであって、その閉塞感と焦慮感は良く表現しているのだけれども、劇としての進行・展開が少ないのが物足りない。 だからどうなんだ! と言わざるをえない。
 その他、細川泰史・八戸卓哉・赤谷翔次郎。以上8名の出演者が入れ替わり立ち代り様々な役で出演し、まさに入り乱れる末世的風景をパッチワークのように繰り広げてみせる。