演 目
マルタのやさしい刺繍/映画
観劇日時/09.9.19.
作品データ/スイス映画・2005年度制作
2007年度アカデミィ賞外国語部門ノミネート
劇場名/アートホール東洲館

男尊女卑のスイス旧守主義の崩壊

 スイスの山深い静かな美しい田舎街、夫を喪ってまもなく10年の寡婦マルタは、生きがいを失って茫然と日々を送っている寂しい老婦である。
彼女の一人息子は、地域でたった一人の牧師であるが、夫婦仲は破綻し不倫関係の女性がいる。その息子は、自分の保身のためもあって母親マルタに静かに大人しく生きていて欲しい。
マルタの友人の未亡人は、若いときアメリカに渡ろうとしたことがあった行動派である。彼女は、マルタが昔ランジュエリーの製作をやっていたが、夫の反対で諦めた過去があることを思い出し、その思いを再開するように勧める。
息子の牧師はもちろん周りの全ての人達は、老人が下着を製作・販売することが下品であり村の品位を損なうと称して、反対し妨害する。しかし志の燃えたマルタは4・5人の同志を得て、この田舎町で製作と販売を開始する。
様々な障害を乗り越えて、ついにインターネット販売に成功する、その過程を描く。
騒動が起こる前に、村の男声合唱団旗の修繕を頼まれていたマルタは、ランジュエリー事業に専念していた余り、それを忘れていた。
合唱祭前夜に催促されて、大慌てで速成した団旗は鮮やかに以前とは全く違ったものであった。旧守派の合唱団は、マルタの成功の前にこの新しい旗を掲げざるを得なかった。
この旗は、新しい世界へと向かう老人パワーの勝利と歓喜とを象徴する旗でもあったのだが、僕はスイスという山紫水明の一種の理想郷が、こんなにも男尊女卑で保守的で旧守的なのに驚いたのであった。