演 目
唯、優しさを織りこんでキミの修復
観劇日時/09.8.27.
劇団名/演劇ユニット イレブン☆ナイン
作・演出/納谷真大 照明/広瀬利勝 音響/三浦淳一・奥山奈々 舞台/フクダ舞台
振付/藤本章子 宣伝美術/小島達子 似顔絵イラスト/水津聡 宣伝写真/星野麻美・梶田忍
ヘアメイク/原田由架理 衣裳・小道具/出演者全員
舞台監督/出演者男子たち、そしてときどきイナダヒロシ
雑用・演出助手/畠山由貴・阿部星来 制作/神馬千代子 制作統括/嶋智子
主催/イレブン☆ナイン 共催/NPO法人コンカリーニョ
企画・製作/劇団イナダ組
劇場名/コンカリーニョ

二重人格者の純愛

 織田唯子(=今井香織)と織田優作(=杉野圭志)は兄妹で共作している売れっ子の漫画家「キミノミキ」である。唯子は、天才的な漫画絵を描くが、多少知能が異常なような特殊な女の子である。だが兄を絶対的に愛し信頼している。
一方、兄はストーリィ作家だが、どうも妹の絵の力に頼っているらしい。だが表面上、妹に対しては絶対権力をもって支配している。
担当の編集者・楠山(=納谷真大)は、その辺の息を熟知して二人を巧く操縦しているようだ。
やがて優作は恋人・スナオ(=上總真奈)との結婚を考え始める。スナオも兄妹の関係を知っているから、三人での生活をも模索する。話の芯はこの四人を巡って展開する。
隣の住人は不法入国の中国人・カンナ(=穂咲めい)だが、キミノミキのフアンである恋人の中国人・陳(=東誠一郎)が寄生している。
この隣同士の住人が一瞬に入れ替わると、唯子と優作は別の人格を表わす。唯子は我の強い妥協を許さぬストーリィ作家であり、優作は妹にも編集者にも従順な下手な絵描きである。おそらくこれは唯子の妄想であろうか? 一種の被害妄想のようにもみえる。だが、どっちの存在が本来のものかは判らない。
この情況の中に、駅のホームでの線路突き落とし殺人未遂事件が起き、聞き込みに回る刑事・小峰(=本吉純平)や、キミノミキの熱狂的フアンでもあるアンパイヤーと称する洗濯屋の御用聞き(=菊地英登)などが絡む。
もう一組は車椅子に乗ったババア(=小島達子)と、それを押しているジジイ(=山田マサル)が登場するが、おそらくババアは唯子の未来の姿だ。唯子の大事なときに二人は唯子に絡む。
ジジイはババアにぞっこんだが、ババアは優作に惚れて、一直線なのだ。
さて、優作と唯子はそれぞれの親の連れ子なので血縁関係がないことがわかる。優作はそれを知っていたのだが、一転して実は唯子の母は優作の父親の愛人であり、優作の実母の死後に再婚したという関係で、優作と唯子は母違いの兄妹であることが優作の告白で判る。
この関係の中で揺れる唯子の心情が、唯子を追い込んでゆくが、この展開が時間と空間をくるくると変えて表れるのでかなり晦渋だ。しかし述べた通り話は単純である。
殺人未遂事件は、唯子の自殺未遂だったことが判り、唯子はババアの押す車椅子に乗って現れる。
このキミノミキは、おそらく作者・納谷真大の創作を巡る苦悩を表わした一種のメタドラマの趣向を感じるが、また唯子の純愛の悲劇という側面も読み取れる。
納谷真大のこれまでの作風とはかなり肌合いの違った物語であるが、展開の仕方やキャラクターなどは個性が強く納谷作品の特性が感じられる。