演 目
札幌教育文化会館 教文演劇フェスティバル 札幌短編演劇祭


このフェスティバルの一行事として、「札幌短編演劇祭」が、札幌教育文化会館小ホールで、8月20日〜22日の日程で開催された。
初日に4チーム、二日目にも4チームが出場し、観客の投票によりそれぞれ各1チームの計2チームを選出、実行委員会による敗者復活1チーム、それに去年の優勝チームの計4チームが出場する決勝戦では、観客投票と審査員の劇作家・演出家の坂手洋二氏、同じく鐘下辰男氏、実行委員長の齊藤雅彰氏の三氏がそれぞれが100票ずつを持って行った。

●演目1  バス停 

劇団名/演劇公社ライトマン
作・演出/重堂元樹

 山奥のバス停の朝、昨日都会から移転してきた女(=藤谷真由美)は、なかなか来ない田舎のバスを待っている。
 そこに現れたのは傍若無人の女子高校生(=小川征子)。彼女はCDを聞きながら文庫本を読む女に、無遠慮にうるさく問いかける。
 この時点では、これはデスコミュニケーションの問題かと思わせる。だが次に狂気の男(=フレンチ)が現れると判らなくなってくる。彼は突飛な衣装とメークでまるでピエロのようであり、これも傍若無人に暴れ回る。
 次に登場するのは紳士(=重堂元樹)であるが、これも見た目は紳士だが、言ってることは支離滅裂で、何か仕える主人が王政権力の復帰を期して、ことがなりそうであるらしい。
 女子高校生が唯一、交流する相手の女(=武田のぞみ)は狂気の男の妹で、狂気の兄は王子であるらしい。
 何がなんだか判らないうちに執事の紳士が全員を引き受ける形で退場した後に、バスがくる音が流れて幕。
 一種の政治風刺劇らしいが、余りにもシユールでぶっ飛んでいるために理解が困難であり、かつ平板で表層的なのが共感を得にくい。もっと深みを感じさせる内容がないと感銘度が低い。



●演目2  てるてる坊主のワルツ 

劇団名/ユニット突貫工事
作・演出/村田昌平

 これも一種の政治風刺劇か? 最初は群衆同士のやりとりが、はっきりと何を目的としているのか判らず、呆然と観ているだけだが、まるで「よさこいソーラン」のようにスピーディで統制のとれた群衆の動きに見とれる。
 やがて二人の少女が海辺の感傷を語り、たぶん後で考えるとこれは自然環境を、故郷を、そして国を愛することを語っていたのではないのかと思わせる。
 舞台いっぱいに大きなてるてる坊主が組み立てられるが、おそらくこれはある組織または国の指令塔であると同時に核兵器を象徴しているようにも見える。
 二人の少女は捕らわれ拷問される。やがて真っ赤に染めあげられたてるてる坊主の中で幕が降りる。 
ちょっと変化が激しすぎて、了解不能な部分が多いが、大勢の出演者の迫力に見とれた。出演者、多数省略。



●演目3  キラービーチ 

劇団名/THE BIRDIAN GONE STAZZIC
作・演出/ミヤザキカツヒサ 

海辺へキャンプに行く途中で三人の若者が起こした自動車事故。転がった死体を前にして、無責任な責任転嫁を繰り返す三人。パニックに陥った三人が起こす無意味で滑稽な行動。
 暗転すると被害者が入れ替わって、また後の三人が、同じ展開の繰り返し。さらに暗転で被害者が入れ替わってまた同じ状況の繰り返し。
 4度目は、最初の運転手である女が今度は被害者の死体になるわけだが、舞台はここで突然幕を降ろす。何度やっても同じことだという皮肉か?
 登場人物の四人(=八十嶋悠介・斎藤佑介・浦竜也・菜摘あかね)が交互に被害者に変わって同じ状況を繰り返すのは、誰もが同じ状況になる可能性があるとのメッセージであるが単純にその繰り返しが可笑しい。
 しかも同じ展開の繰り返しなのに微妙に違っていたりする、その高度のテクニックは技術的にも素晴らしいものがある。
 ちょっとこれは『どくんご』の「犬を殺したのはだれだ」という責任転嫁のシチュエーションに似ていないとも限らない。
人間の自己保身や責任放棄の醜さなど、かなり味があり、また可笑しさのテクニックも抜群であった。



●演目4  SHINDO 

劇団名/イレブン☆ナイン
作・演出/納谷真大

 会社の上司が部下の佐々木くんを自宅に連れ帰る。(=安浦雅俊・細川泰史)。上司は我が息子の神童「たっくん」が自慢で、部下の佐々木くんに見せたいのだ。
 途中のやりとりを面白可笑しく見せながら帰宅する。息子のたっくん(=声・吉江和子)は、近未来を予言する超能力があるのだという。
 その実験をしているうちに、たっくんは「父親がまもなく死ぬ」と予言する。あわてる妻(=吉江和子)を含めた三人。
 突然、佐々木くんが死ぬ。そうだったのだ、たっくんは部下の佐々木くんの子だったのだ。        
この小物語をたとえば、弱者の強者に対する意識下の無言の抵抗と読み代えることも可能だが、かなり苦しい。フランス小話的な艶笑噺みたいな矮小性に止まるのが限界であろうか? そもそもフランス小話の核心って何だろうか? という疑問が湧いてきた。



●演目5  TUC版・ニューベルングの指輪 

劇団名/ザ・ユニット・コラボレーション
作・演出/甲斐大輔

 権力闘争と金銭的な欲望の末、破滅に向かう人類の歴史を示唆した神話、ワーグナーのオペラの物語の集約である。もちろん全編をやるのは無理なので、第一部「ラインの黄金」の集約である。
 神話であるが話は平凡、なぜこのオペラにモチーフを求めたのか良く判らない。
 最悪なのは、語り(=松本直人)が物語の進行を解説することだ。芝居とは、登場人物が物語の進行でどんな展開になるのかを観客が共有することだ。それを説明されて何が面白いのか!
 出演者は12名の多数のため省略。



●演目6  山椒WAR 

劇団名/劇団 ファミスタ
作・演出/和田諒
 
山椒の粉を飲んで人格が一変したダメ先生。弱い男子生徒を励まし、彼女に告らせる。二人の再生で目出たし目出たしなのだが、脚本にも演技にも余分な夾雑物が多すぎて邪魔をする。だが、それがギャグになっているのか客席は大いに湧くが純度が低いと言わざるを得ない。
 とにかくエネルギッシュなのは、こういう若い集団の特徴で、それが演劇に何らかの新しい力になることを期待するのみであろうか?
 出演者は多数のために省略。



●演目7  遮光 

劇団名/エビバイバイ
作・演出/斉藤麻衣子

 女性三人のコンテンポラリィダンスで幕が上がる。このダンスが何を意味しているのか? 意味だけを探る僕の悪弊が首を擡げる。おそらくコンビの中の良さの裏の葛藤を象徴するのか?
 舞台は一転して気怠い夏の午後、女三人が卓袱台の果物と周りを飛び交う夏の虫を巡って取り留めのない会話。このやりとりが結構可笑しいのだが、本筋は大きなクッションを使った二人の女の激しい闘い。おそらく嫉妬心。
 だがその二人のクッションによる叩き合いの激しい肉体的闘いは、幕切れまで執拗に続くだけで、残った一人は完全に無視だ。お互いに完全無視。
2人の終りのない闘争と、わざと孤立する1人との二重対立か、2人の対立は一方が叩き続けて、終わりの暗転になっても叩き続けるのは一種の壮観である。



●演目8  やめた 

劇団名/ yhs
作・演出/南参
 
スーパーのアルバイトの男が、今月いっぱいで辞めると申し出る。慌てる店長。だがなぜか男は強気だ。
一方、別の女性アルバイトは、別の男にストーカーされていて、それを止めるようにあの手この手で相手を阻止しようとしている。
 さらに別の変な女は、下着を盗まれたと店長に訴えて協力を願い出て拒否され、拒否を止めてと、それぞれが様々な「止めて、止めて」の大合唱だ。
 ラストは強烈なドンデン返しだ。ネタバラシをすると、店長がホモだったということで、退職を願い出たバイトがその被害に遭っていて、ストーカーの男も被害者だったという結末には大爆笑が起こった。
 この単純なストーリィの可笑しさは只者ではない。大物語に転換するまでもなく、この小物語自体が人間の存在の可笑しさを充分に表現していると思われるのだ。



●演目9  明智十三郎 地獄がおれを呼んでるぜ! 

劇団名/劇団 怪獣無法地帯+3ペェ団札幌
作・演出/棚田満

前年度の優勝者としての出場である。前回の作品に僕は「民話的あるいは神話的な素材を『芸術至上主義と愛情との人間的な悩み』さえ感じさせる素材を、和風で古典的な手法を使って格調高く表現した。『怪獣無法地帯』や『3ペェ団』らしからぬ意外と真面目な一編である」と讃えた。(『続・観劇片々』第22号所載)
去年が意外だったので、今年の演目は「らしい」出し物だ。はっきりいって良くわからない。僕が少年のころに愛読した善悪攻防の少年探偵冒険小説の世界で、懐かしくはあるが意図が不明だとしか言いようがない。
16人という大人数の出演者が繰り広げる一大ロマン劇だが、短い時間に大人数だからドラマとして成り立ち難い。
終演後の批評でも予告編だと言われていたが、おそらく審査員たち(坂手洋二氏・鐘下辰男氏・齊藤雅彰氏)は、大人数の登場人物が織り成すであろう激しいロマン劇を期待したのではなかろうか? たとえば『劇団新感線』のような、ただし『新感線』は基本的に虚無の世界ではあるのだが……
小じんまりと纏まったストーリィ主体の題材が多い中で、異彩を放っていたのは確かであろう。入り乱れて激しく人間が動く展開に、劇の第一義を予感させたのかも知れないが、確かにこの路線は『怪獣無法地帯』の独壇場ではある。
一般の観客は、小難しい不条理劇よりもこのワクワク感に劇の面白さを期待して、観客投票と審査員の評価が奇しくも一致したのだろうが、その感覚が僕には新鮮に受け止められた。この結果は意外ではあったが納得の出来るものであろう。
作・演出で『怪獣無法地帯』主宰の棚田満氏は、受賞後の感想で「全く勝つことを狙っていなかった。やりたいことを自由にやってみただけだった。来年はシード権を使って続編をやりたい」と、余裕の発言であった。