演 目
モブよ、泥棒のように走れ
観劇日時/09.7.28.
劇団名/AND
公演形態/2009年交流戦アンド初のテント演劇公演
作・演出/亀井健 照明/上村範康
音響・出演/ナガムツ
劇場名/札幌円山公園・「どくんご」特設テント劇場

エネルギッシュな政治闘争劇

 「Mobu,」とは何か? 作者・亀井健の造語らしいが、僕にはMob「暴徒・活動的群集(研究社リーダーズ英和辞典)」と読める。
 街のクリーニング屋・深田(=亀井健)は恋人・夕凪(=矢野杏子)と慎ましく家業に専念していた。世襲政治家の木村(=山田マサル)は、深田の幼なじみの親友である。
 父親の後を継いで総理大臣になった木村は、権力を恣にし、挙句の果てに事もあろうに「日本語からタ行の発音を禁止する」という法律を成立させる。そして次々とエスカレートさせて「マ行」「ラ行」と禁止し、最後には「ワ」と「ン」以外は発音することを禁止する。
これは一種の言論統制の暗喩であろうが、よくこの不自然な台詞を機械的に覚えて、発声できたものだと変なところに感心する。
可笑しかったのは、野外の小テントだから舞台背面が徐々に取り払われて公園の緑の部分が大きく使われると通行人が歩いているのが見え、それも舞台装置の一部として取り入れられているのだが、ちょうどその時、犬を連れた散歩者が通りかかり、その犬が役者たちの「わん・わん」という台詞に反応して「ワン・ワン」と吠え立てたことだった。
 場内爆笑だったが、思いがけない効果は野外劇場ならではのものだろう。
 さて、話を戻して、洗濯屋の深田は、反政府組織「サイレント・タン」を作り、地下室に籠って活動する。
 木村総理は、正直に発音法を守る官房長官の金子(=小林尚史)とさえも会話が通じなくなって苦悶する。
 ついに木村は、深田との旧交を思い出して、「サイレント・タン」のアジトである地下室へと向かう。そこで何が起こるのかは分からないままに芝居は唐突に幕を降ろす。
 観ていた感じでは、木村が深田の軍門に降るように思えたが、それだと甘い結末であろう。徹底的にこの闘争を追求した方が芝居としての深みが出たように思われた。
 舞台が極端に小さいため(おそらく5b×3bくらい)、客席から見て逆三角形に広がる公園敷地を存分に使ってエネルギーいっぱいで泥だらけの熱演が好感をもてたのと、『AND』としては分かりやすい展開で楽しめたと同時に、政治的意図を端的に示したものとして評価出来よう。
 相変わらず、ダイアローグが一人よがりのモノローグにしかなっていない部分が多いという亀井健演出の欠陥が随所に見られる。これが魅力という人もいるかもしれないが、僕は自己陶酔であって最大の欠陥だと思っている。
 そのほか若い恋人たち(=小原綾子・赤谷翔次郎)、末期ガンのやくざ(=岡村智明)、ギャグだらけの取締官(=八戸卓哉)などなど、そのほか大勢の台詞のない役でも札幌演劇界の共演者たちが暴れ回る。
 思うに日ごろ経験の少ない野外劇場に興奮したんだろうか? 一種のお祭り気分で、それはそれで悪くはない。場を提起した亀井健の思いがけない功績であろうか。