演 目
腐 食
観劇日時/09.7.15.
劇団名/Theater・ラグ・203
公演形態/水曜劇場 第一弾作品 再演
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸
音響オペレーター/吉田志帆 照明オペレーター/瀬戸睦代 宣伝美術/久保田さゆり
劇場名/ラグリグラ劇場
出演/柳川友希

レパートリィ・システムの成果

 柳川友希、二度目挑戦の『腐食』である。前回の感想を読み返してみた。
この芝居、鈴木亮介・田村一樹・村松幹男と何度か観てきて、その都度様々な感想を持った。そして四人目・柳川友希の初出演は08年7月で、ちょうど一年前である。
そのときの感想は、「楷書体の演技、発展途上の役者」と書いた。今回の再出演も同じだったらどうしよう? という危惧が頭を掠める。
開幕、いきなり引き込まれた。確実に入魂の演技であることが判る。だから彼の心情、特に最初に鈴木亮介の出演で観たときに「社会主義リアリズムの匂いを感じた」と書いたことが、今回は、そういう背景がリアルな彼の心情として訴え掛けてくるのだ。これは収穫であった。
しがない銀行員としての日常や、その背後にある金権主義者、悪徳政治家とやくざの存在などが、くっきりと浮かび上がってくるのを感じたのだった。
僕が否定する一人芝居が、ここでは大きな力でその存在を強く主張しているのが感じられるのだ。もちろん戯曲が良くないとそれは出来ないことだが、同時に演出と演技が伴わないと表出されない。そこが演劇の面白さであろう。
しかもこの芝居は今までに4人の役者が入れ替わり立ち代り出演して大事に育ててきたのだが、少しずつ成果を挙げてきているのに感銘する。
レパートリー・システムが、このような形で受け継がれていくことを喜びたい。願わくば観客が増えることを……
前座芝居として新人の井向和宏が、村松幹男との10分ほどのミニ芝居を演じた。新人サラリーマンと人事部長との権威の逆転を笑う、落語『船徳』と『らくだ』のいいとこ取りをモチーフにしたような話だ。
井向は、地でやっているような惚けたようなパッションの低い役柄の可笑しみが弱く、突然逆転した時の鋭さに欠けること、つまりその落差の激しさが足りないのがちょっと気になる。