演 目
歸 國
観劇日時/09.7.3.
劇団名/富良野GROUP
作・演出/倉本聰 棟田博『サイパンから来た列車』をもとに
演出助手/城田美樹 演出補・衣裳/平木久子 音楽/倉田信雄 舞台監督/小林彰夫
技術監督/九澤靖彦 照明/広瀬利勝 音響/三浦淳一
制作/寺岡直俊・太田竜介        その他大勢
劇場名/富良野演劇工場

熱い男たちの遺書

 09年のある日、深夜の東京駅のあるホームに一台の列車が入ってくる。その列車の乗客は、南の深い海の底に眠っている65年前の戦死者たちの亡霊であった。 一夜、彼らは長年夢見た我が身命を捧げた祖国の繁栄を我が眼で確かめたかったのだった。
 だが彼らの観た祖国・日本の現状は、想像もできない不思議な世界であった。自分たちはこうゆう日本を期待して生命を賭けて死闘をしたのであろうか? 各地を彷徨い、不安と懐疑とに自分自身の存在さえ否定されかねない情況に彼らは絶望する。
『歸國』というタイトルを、あえて本字体で表記した作者の、日本文化の退廃に対する熱い批判的な思いが良く判って同意する。
大宮上等兵(=梨木謙次郎)はたった一人の家族である妹を必死になって育て、浅草のヒロインにまで育てた。ところが彼女の息子・健一(=熊耳宏之)は、今や学者として政府の審議員となり毎日TVで経済の解説をしている人物である。
その大事な大宮にとってのたった一人の肉親である妹、健一の母親が植物人間になっているのに、甥の健一は入院させたまま金は払って延命させても自分は全く見舞いにも訪れないことに自我を失った大宮は健一を刺殺する。彼はもう彷徨う南海の海底にさえ戻れない永劫の闇の中だ。
一人彷徨う大宮の下へ、甥である刺殺された健一の亡霊が謝罪に訪れる。だが大宮は許せない。泣きながら叩きのめす……彼は肉親である甥を許したのだろうか? 許さざるを得なかったのだろうか?
今まで倉本聰の戯曲は、悲憤と議論と説得の展開であって、
何だか演説を聴かされているような気がし、それは演劇じゃないよと思ってきたのだが、前回の『屋根』のときちょっと違ったかなと思って、今回のこの『歸國』によって、葛藤する芝居が観られ、こういう戯曲が優れた表現技術を持つ富良野塾のスタッフ・キャストによって舞台化されることを大いに評価したいと思った。
この舞台は、過度に発達しすぎた祖国日本を告発する熱い男たちが絶望していく物語であるが、作者のオリジナルではなく原作があるのはちょっと意外だった。しかし、やっぱり倉本聰の悲憤慷慨の初心は保たれているのを痛感した。
その他の出演者は33人になるので割愛するが、知らない役者たちが多い。