演 目
プーチンの落日
観劇日時/09.6.23.
劇団名/劇団イナダ組
作・演出/イナダ 照明/高橋正和 
舞台/フクダ舞台 音響/奥山奈々 音楽/飛渡健次郎 
舞台部/中村ひさえ・坂本由希子 宣伝美術/小島達子 
写真撮影/奥山奈々・高橋克己・岩泉雄士
衣裳/稲村みゆき・宮田碧・上總真奈・服部悦子
制作/岡田まゆみ・小柳由美子・根井聡子・井土雪江・
駒野華代・新浜円・畠山真波・田中絵梨・佐伯俊
宣伝広報/岡田まゆみ・岩本圭 企画・製作/劇団イナダ組
劇場名/コンカリーニョ

近未来の僕の、たぶん実情

 廃線で廃駅になった過疎地の古い駅舎。今は、この駅で長く駅長を勤め上げた男・柳田寛治(=納谷真大)の息子夫婦・柳田宏彦(=武田晋)、かおる(=山村素絵)が、父の願望もだし難く退職金でその駅舎を買い取り、民宿に改装して地元の応援や鉄道マニァの支援でそこそこ繁盛している。
母・静江(=若いころ・宮田碧)は既に重度の病で長らく地元の病院に入ったきりだが、このところ父・寛治も少し怪しくなってきた。
駅長として華やかに活躍していたころの想い出や、もっと若かったころの秘めた恋の追憶やらが頻出する。彼の静江との恋は劇的な波乱と、大きな純粋の決意とがあったのだ。
今は民宿のロビーになっているかつての待合室は、正面が開くと奥に懐かしい駅名板の見える改札口だ。
若いころの駅長(=高田豊)のアナウンスに従って、大勢の乗客たちが出入りして賑わっている。そういう過去と、現在の家族たちや周囲の人たちの苦悩とを、同時併行で見せていく。
やがて父・寛治はのっぴきならない老いの世界へと落ち込んで行くが、葛藤し続けた息子・宏彦やその妻・かおる、そしてその娘で寛治にとっての孫娘・早紀(=上總真奈)、そして寛治の娘で宏彦の妹・孝子(=小島達子)とその夫・戸田山(=本吉純平)たちや、周囲の善意に見守られながら静かにその時に向かって行く。
息子夫婦と孫との諍いや、兄夫婦と妹夫婦との葛藤などは、現代的なリアリティのある情況を活写して魅力的だが、一種の風俗劇でありそれ以下でもそれ以上でもないのは、イナダ組としては珍しい展開だ。
それぞれの役者が、従来の持ち味以外の様々な役柄の個性に扮したり、少数の出演者たちが入れ替わり立ち代りして違った役柄で舞台に現れたりしながら、同じ役者だと感じさせない技巧などさすがと唸らせる。
特に江田由紀浩は、眼光鋭く静かに睨みを効かせながらマスターの補佐役として陰の存在の威力を発揮するという見慣れない役柄を演じ、最初は誰が演じているのか判らないほどに見事であった。
まるで強面のやくざの若頭のようでいながら、マスターを立て父親に細かな気配りをするこの人は、古い日本の男の鏡のような人物像だ。口数少ない彼の言う「心配できる親のいることが、私にとっては羨ましいくらいに幸せなことです」というのが、彼の過去の暗さを感じさせ、この舞台の暖かさのメッセージであろうか?
この爺さん78歳、あと5年弱の僕の近未来の実像でもある。
その他の出演者。若い静江に横恋慕する若い男・その他(=佐藤慶太)、早紀のストーカー・その他(=野村大)、医者・その他(=黒岩孝康)、研修医・ほか(=菊地英登)、看護師・ほか(=丸田美沙子)、その他(=石川龍二・田村洋・塚田明日加・山崎優香)。
さてタイトルの「プーチン」とは何の謂いか? 小さな独裁者とでも言うのだろうか?