演 目
オセロになりたくて 改訂版
観劇日時/09.5.13.
劇団名/Theater・ラグ・203     公演回数/水曜劇場 Vol.3(再演)
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸 音響オペレーター/瀬戸睦代 照明オペレーター/柳川友希
劇場名/ラグリグラ劇場

世間に負けた中年男の哀切

 ある小さな劇団、年配の売れない役者・前川(=村松幹男)は、オセロゲームと酒が好きな独身男である。
若く気鋭で外部演出が多く売り出し中の、同じ劇団の演出家・沖田(=田村一樹)は前川と仲が良いというか、沖田は前川を兄貴分として敬愛しているのだが、その沖田が大劇場で演出する次回の演目、『オセロ』の主役オーデションに、前川は沖田の勧めで役者生命を賭けて応募するつもりである。
一方これも若い女優・千晴(=吉田志帆)は、親子ほども歳の違う前川をひたすら慕っており、その勧めでデイズデモーナ役でのオーデションに備え、前川に導かれて二人で稽古場で努力している。
前川は沖田の推薦によりオセロに配役され、主演女優は制作サイドの思惑によりアイドルスターが選ばれるが、千晴も助演者・イヤゴーの妻=イミリアとして配役される。
地味な前川に反対する制作サイドは、奸計をもって前川を失脚させて降ろし、外部からスターを起用する。
失意の前川が、深夜の稽古場で一人自棄酒を痛飲しているところへ千晴が訪れて慰め、一緒に飲めない酒を飲む。酔った前川は、千晴を前にシエクスピアを延々と語る。
千晴は、『オセロ』に成功した沖田にプロポーズされたことを前川に告げる。動じない姿を装う前川……
2時を過ぎて帰宅を勧める前川に、少し酔った千晴は前川の部屋に泊まりたいと言う。狼狽する前川は、自分の部屋は人が泊まれないほど荒れ果てていると婉曲に断る。千晴は「バカ」と呟きを残して去る。
シエクスピァ四大悲劇の一つ『オセロ』を下敷きにして、オセロゲームを絡ませ、オセロになれなかった一種の業界残酷・悲恋物語。
オセロゲームは、一転して逆転する可能性の高いゲームだ。というより一発逆転の面白さを賭けたようなゲームだ。
前川は奸計に遭ったとはいえ、油断して逆転され人生を失ったわけだ。村松戯曲にはこのように何かを何かのメタファとして登場させることの面白さが強い。
今回は、オセロゲームを人生の変転の象徴として表現したわけであろうが、割と単純な感じもする。逆に言えば分り易いとも言える。
物語の必要上、『オセロ』が劇中劇で演じられる。現代的といわれる小田島雄志訳ではなく、わざとにアナクロとも思われる福田恒存訳を使ったようだが、それが妙に効果があり、従ってかなりオーバーアクションで古典的な演出だが、むしろ何か懐かしいような気もする。
それは時流に乗れない朴訥な前川の心情をも表わしているような気もすると思うのは考えすぎか?
僕はこの戯曲は初見であるが、村松戯曲としては分り易くストレートで、その幅の広さを示す好一編であるが、後の『乾杯〜それぞれの想い』『E.T.〜エレベーター・トリック』など、現実性の強い作品群の原点とも言えるものであろう。
今回の上演は改訂版ということだが、僕は初演を観ていないので、終演後、何処が変ったのか聞いてみたところ、ラストで前川が自棄酒を飲むところが、前作では心を病むことになっていたそうだ。
僕はむしろその方が現代的で、心の傷の深さをより強く感じさせるような気がしたが、一方、自棄酒を飲んだくれるという展開も健康的で人間臭い在り様で、逆にこの前川に親しみを持てるのかもしれない。
それぞれであろうが、そういう具体的な想像が出来るところも好ましく、観客に自由に参加させられる余裕のあるところも面白いとも言える。




■■5月の舞台■■ 

今月は事情があって3本しか観ることが出来なかったが、そのうちの2本が秀作だったのは収穫であった。

観劇日・順
☆ キサラギ     CATプロデュース
この芝居は、映画で観たときから舞台向きだと思っていたが期待を裏切らなかった。当然ながら、映画と趣が違うのが良かった。

☆ オセロになりたくて  Theater・ラグ・203
この劇団にしては珍しく分りやすい物語だが、決して低俗ではないのは当然であり、中年男の孤独と哀愁とが切ない。