演 目
キサラギ
観劇日時/09.5.3.
主催・製作/TV朝日・ニッポン放送・CATプロデュース
企画/野間清恵 
原作・脚本/古沢良太 舞台脚本/三枝玄樹
演出/板垣恭一 美術/伊藤雅子 照明/鶴田美鈴
音響/堀江潤 衣装/関けいこ 演出助手/福原麻衣
舞台監督/安田武司 舞台製作/加賀谷吉之輔
劇場名/北海道厚生年金会館

5人の男たちの人生

 この物語の映画を観たのが07年6月、約2年前だ。そのときの報告にも書いたが、これは絶対に舞台劇にすべきだと強く思った。
それはこの5人の男たちが初めて会って、徐々にその男たちの人生の背景が露になる過程が約2時間、密室の中でリアルタイムに展開するのが如何にも舞台的だったからだ。
映画での男たちの会話の中では、売り出し中のD級アイドルの死因が謎めいている感じが強いが、この舞台では逆にだんだんと死因が詰められていく感じが強い。分り易い気がするのだ。
キサラギ・ミキはまだ全く売れていない時期に突然自殺した。それからちょうど一年目、フアンクラブのネットサイトで知り合った5人の男たち、家元(=松岡充)・今井ゆうぞう・佐藤智仁・中山祐一朗・オダユージ(=今村ねずみ)が、ミキのデビューと最後の舞台になったある市民会館の地下の機械室に集まって追悼集会を開く。今井・佐藤・中山の三人は役名が分らないので、俳優名だけを記しておく。
5人はそれぞれ全くの初対面だ。ハンドルネーム・オダユージがミキの自殺の原因を推測する。そこから5人それぞれの、自分自身の具体的なミキとの関係や、自分自身の生き方を絡めての、自殺・他殺・事故死を巡って議論が沸騰し、推測は二転三転する。
当然、意外な5人の素顔が露になってくる。ほとんど会話だけだが、実にスリリングな展開である。
簡単にそれぞれの職業を書くと、実は「オダユージ」はミキのマネジャーであり、「家元」と名乗る男は刑事、「安雄」は幼馴染でミキが唯一、心を許していた男、「スネーク」は出入りの飲食店の店員、「イチゴ娘」は別れた父親である。
場所がミキに関係するところであるとはっきりと指定されていることが、映画と違って具体的で分り易い。映画では何かの廃工場跡のようで、無機質な感じが強く非人間的な感情を刺激していたような気がする。
そして5人の職業やミキとの関係が、はっきりと具体的に分ることが物語を分り易くした。映画では「イチゴ娘」のインパクトが強すぎて他の男たちの印象が薄くなっていたような気がする。
この展開の中で見えてくるのは、それぞれの自分勝手な強い思いが見せる人間の弱さの表われと同時に、その裏側に見える優しさとの複雑な心理情況である。
そしておそらくそれは、多くの人間たちの心の状態であろうし、それが一つの事件を巡って現れてくることの不思議さでもあろうか。
もう一度、この映画を観たくなった。この大きな劇場では映画のようなアップ・シーンがなくて、心理劇としては登場人物たちの表情が分り難く、それだけ他人事のような感じが強く、心情移入が薄くなる。