演 目
屁をこく女の話
観劇日時/09.4.29.
劇団名/劇の素艶屋
公演回数/第5回本公演
作/矢野ツカサ 演出・美術/佐藤鍵 照明/豊島勉 音響/石田千景 制作/MARU 協力/小劇場本舗
劇場名/アトリエ練庵

ドラマ性の薄い情況説明

 ポテトチップなどの袋菓子の空袋が部屋一杯に散らかって、
その中に埋め込められたようなカウチに座り込んだ老女(=小川恵理)が、ひっきりなしに缶ビールを飲み菓子を食べながらテレビを見て独り言を言っている。
脚が不自由らしく、立ち上がっても上手く歩けず、転がったり四つんばいになったりで部屋中を移動する。
放屁したり、ヨチヨチとトイレに立って盛大に水洗の音を立てたり、一人暮らしらしいいわゆるカウチポテト人間の、何とも生理的に不快な情況を延々と見せられる。
やがて少し精神に異常を来たしたらしいもう一人の老女(=松浦みゆき)が来る。彼女はいつも何か失ったものを探しているようだ。一種の老人性認知症の患者であるらしい。その患者でなくても、失念はある社会的な状況の象徴的な表現ともいえるけれども……
さらにもう一人若い女(=大友理香子)が来る。彼女は得体の知れない女だが、おそらく介護師らしい。二人の老女に上手く話を合わせているようだ。
さて、ここでドラマは起こらない。人生の終幕へと向かう二人の女の悲惨ともいえる情況が示されるだけだ。表現技術の完成度が高いだけに、それだけでは物足りなさが強く残念な気がする。
この集団のレパートリィは、第一回『天守物語』矢野ツカサ・脚本、第二回『天使が四人』松浦みゆき・作、第三回『地獄八景亡者戯』矢野ツカサ・作、第四回『こいの湯』松浦みゆき・作、そして今度の第五回『屁をこく女の話』矢野ツカサ・作と二人の作品を観てきたが、松浦・作品は、『OH! MY!! GOD!!!』を含めて、やや晦渋味の強いドラマ性が持ち味であるのに対して、矢野作品は『天守物語』以外は、コミカルな情況描写という風に、特徴が整然と分かれているのが面白い。だが両作に共通するのは何故か、老境と死の問題を扱っているような感じがするのは偶然であろうか?
今度もその流れの中に位置するのだろうが、やはり何かの波乱を期待したかった。人間同士の葛藤から何かが産まれてくるのを体験するのが僕の観客としての立場だから、二人の老女の実態と、それに寄り添う若い女の姿を見せるだけでは、はぐらかされたような気がするのだ。
演劇としては、この三人の間に何かが起こることを期待していたのに……


■■4月の舞台から■■
観劇日・順
☆ 炎炎炎炎            コスモル
硬派のメッセージをエンターテインメントで表現。
☆ さとがえり         KAKUTA
卑俗になりそうな物語を一ひねりした表現。
☆ コバルトにいさん      イナダ組
練り上げられ、レベルアップした再演。