演 目
さとがえり
劇団名/KAKUTA
観劇日時/09.4.7.
公演形態/倉出し公演  
桑原裕子処女作品―『とまと2001』改め
脚本・構成・演出/桑原裕子 照明/西本彩 音響/貴島聡 舞台監督/安田美知子
舞台美術/袴田長武 選曲/真生 演出助手/田村友佳 
衣装/山崎留里子
制作/前川裕作・眞覚香那子・堀口剛 
企画・製作/K.K.T.
劇場名/下北沢ザ・スズナリ

裏から見た幸せな老齢性痴呆症

 長野県の湖の近くにある民宿。一人で切り盛りしているのは田端芳子(=舘智子)、やって来たのは、3年前に亡くなった芳子の義兄・宗明の三回忌法要に出席するために帰省した宗明の妻・田端みずえ(=大枝佳織)、その長女・桐子(=はらださほ)とその夫・守山一郎(=諌山幸治)、次女・晶(=桑原裕子)、長男・真(=松田昌樹)。
みずえは、何故か夫が亡くなってからどんどん若返り今では子供たちより若く見られるくらいになっているが、それは家族にとっては戸惑いの原因でしかない。
舞台ではこのミラクルな現象を巡って様々な混乱が描かれるが、それは実は老齢性痴呆症の裏返し的表現ではないのかと思って観ていた。つまりこの肉体的変化は精神的変化の裏返しの表現なのではないかという考えだ。
対応に困惑するだろう親戚たちのことを考えて、彼女は顔を黒いベールで覆って出席する。だが食事会でベールを上げた途端にベールが取れて大騒ぎになったというエピソードなど正にその大きな現れであろう。
ここへ若さの象徴として大学のオカルト研究会の三人(=横山真二・異儀田夏葉・ヨウラマキ)が現れて対照的に、彼らの呑気な青春群像が描かれる。
放浪する一人旅の楯本青年(=佐藤滋)は、女たちの憧れの的になる。芳子の友人・みどり(=土井きよ美)は家事に飽きるとプチ家出をしてこの民宿へ泊りに来る。
みずえは、このみどりを若いころ親友であり恋敵でもあった、みどりの母親と間違える。それほど、みどりの母子はそっくりだったのだ。そして、みどりは長女の桐子と少女時代の仲好しでもあった。
みずえ・宗明(=内田健介)・芳子そしてみどりにそっくりなその母親との4人の若い日の回想場面が哀しくも懐かしい。老いとは昔を懐かしく回想するものなのか。古い写真をみているような温かさと切なさが溢れる。
翌朝、みどりは何事もなかったように帰宅する。それを見た楯本も帰ると言い出す。実は彼も妻と諍い旅に出たことを告白し皆の思いを裏切るのだが、彼はみどりを見て里ごころが付き、帰宅することにしたのだ。
ラスト、みずえは顔に墨で稚拙な皺を描いて現れる。「そんなに皺は深くないよ」と娘たちに言われる。
みずえの悲劇を、そして老いの哀しみを、精神的な老化現象というものを、肉体的に不可能な現象に象徴させて描いたということであろう。
民宿や法要という設定は、様々な人たちが一堂に集まるというメリットが強く定番だが、リアルな和室を造って充分に楽しめたのだった。