面白かった『他人の手』
寄 稿/梶  司

観劇日時/09.3.25.
作・演出/村松幹男
出演/刑事=平井伸之、女=久保田さゆり、男=柳川友希
劇場名/ラグリグラ劇場 (南区澄川3条3丁目)


あらすじ

モチーフ
科学者らしき女が現れて親指以外は三つの関節を持つ人間の手は物を掴み、物を作る。これが人間と他の動物を区別し人間を進化させた。だが、手で掴めないものがあるという。(多分それは「愛」だろうと考えながら観劇開始)

第一場面
刑事が殺人被疑者の女を問い詰めている。女の部屋から男の腐乱死体が出てきたからだ。刑事は早く真実を語れというが、女は沈黙。腐乱の臭いは残り香だという。
遂に女は真実を語り出す。女の生まれは田舎、真面目に育てられて都会に出て来たという。刑事はそんな事を聞いていないと怒り出す。(そうか、手で掴めないものに真実があったかと思う。と同時に、腐臭、残り香も)

第二場面 
女は縫製工場で働いている。真面目に仕事をこなしていたが、あるとき上司から叱責を請ける。縫い合わせが捩れているというのだ。何故そうなったか分らないが彼女は平謝り。(機械的作業なのに捩れはなぜ起こったのか、疑問も手で捕らえられない)

第三場面 
近くの屋上に女はいる。自由に空を飛ぶ雲を見ているのが好きなのだ。彼女はやがて屋上の手すりのそばへ行く。
そこへ一人の男が現れて「早まるな」と女に声をかける。男は女が飛び下り自殺をしようとしている、と早合点したのだ。男は煙草を吸いに来たので、煙草を吹かしながら雑談。男はバツイチ男なのだが、また晴れた日に会うことを約束。(雲も手では掴めない)だが、

第四場面 
四日間は雨。五日目に晴れて、二人は例の屋上で再会。ここから二人の交際が始まる。やがて男は女の部屋へ行って楽しい食事、男は女の体を求めるが、拒否される。男は強引に押し倒す。その後交際は途絶えるが、男は先日の非を謝り、またも交際開始。だが、冷淡にされて女は怒る。(喜怒哀楽も手では掴めないか)(この辺に次のような場面があった)
人間の手は過去を語っている。と同時に、手を見ればその人の未来も予測できる。何枚かの手の写真が紹介される。

第五場面 
再び刑事が女を取り調べる場面。殺人の動機は男に冷たくされたことにあるのだろう、と迫っているところに刑事の携帯電話が鳴る。彼女にはアリバイがあって、真犯人は男からストーカー行為を受けていた会社の女性が被疑者の女に罪を着させるために女の部屋に死体を置いたのだという。
男が殺された時、女は研修に行っていて完全にアリバイがあったのだ。刑事は彼女に平謝り。(殺人動機、アリバイ、情報も手では掴めない)やがて、

第六場面 
女は机の下から円筒形のガラス容器を取り出す。その中には死体から切断された男の右手首が。女がいとおしく思っていたもの、それをじっと見詰めるところで幕。(女の心、「愛」を男の手は掴んでいたのだ。観劇終了)

感想 
始めにモチーフを示してくれたので 全体が分り易く面白かった。手で掴めないものという言葉が宝石のごとく劇中に散りばめられていたように思えた。劇中からその言葉を列挙すると、真実、香り、捩れ、雲、喜怒哀楽、手が語る過去、未来、殺人動機、アリバイ、情報、思い出など、他にも沢山ありそうだ。私が想像した「愛」は男の手に掴まれていたという落ち。こんな想像がこの劇を面白くしていたのだろう。観劇後の気分は爽やかだった。

余禄 
この演劇は3月25日(水)が千秋楽、松井君に誘われるままに、劇団員全員での打上げ会に参加してみた。形式抜きの飲み会、何と賑やかなこと。全員が同じ立場で話し合っていた。発声法、演技力、作品評など私には理解の出来ないことが多い。松井君の隣に座っていたので、村松先生と松井君の演劇論も聞かせてもらった。頭で作られた作品でないもの、感動を与える作品が良い作品と聞いたがそれがどんなものであるかは分らない。演劇素人の私には観ていて面白ければ良いのだ。今回の作品は殺人事件にもかかわらず暗い気分にさせず面白かった。それで満足。