演 目
黄色い果実
観劇日時/09.3.10.
劇団名/gah
公演形態/givethanx and happyday
作・演出/百瀬俊介 助演出/滝沢修・手代木啓史
美術/造形ネット 照明プラン/鈴木静悟
音響/shusa 映像/須藤俊秋 衣装協力/岡本嚇子
イラスト/ガリバー中川 写真/高橋克己
広告デザイン/阿部まさこ
スタッフ/乙川千夏・山本菜穂・金山幸意
出演者/伊佐治友美子・稲垣佳澄・亀井健・金野翔太・佐井川淳子・城島イケル・鈴木悠平・関野理恵・
滝沢修・手代木啓史・長岡登美子・ナガムツ・西山美紀子・百瀬俊介・久々湊恵美・斉藤麻衣子・
鈴木里恵・林千賀子・宮田圭子・山口清美・吉田光江・渡辺純子

喪失者たちの抒情詩

 どこかの小さな地下鉄の券売り場。若い二人の女性駅員が居る。鉛筆で分厚い帳簿のフアイルに手書する駅員、手回しの回転日付け印、そしてダイヤル式の黒電話機……
おそらく30年以上前の情景らしい。ただ手書押印の乗車券が自動改札機で通ってくださいという矛盾にはどういう意味があるのか?
待合室らしきベンチには、二人の中年男が毎朝やって来るらしい。終日ベンチに座っている二人は、ノートの切れ端に、一人はひたすら亀の絵を描いている。この亀は紙の中では自由だが水の中へ戻れば平面の亀はどうなるんだろうと考える。
もう一人の男はライオンを描いている。ライオンはあるとき肉を食うことをやめ黄色い果実を食う。それはバナナから始まって梨・グレープフルーツと次第に酸味が強くなる。果実を食うことにより肉体は衰え、精神の衰えに至り再び肉を食うことによって完全に精神が死ぬという絵をひたすら描き続けている。
大勢の人達が入れ替わり立ち代り出入りする様子が様式的に表現されるが、小さな狭い雑居ビルの小さな事務室がメインの舞台と、L字型に設えられた20人分の客席だが、正面ともう一方の出入り口も脇舞台として有効に使われる。
自分の影を失って顕微鏡を使って探す老婆は、その顕微鏡さえも失い窓口に届けるが慇懃に扱われて結局無視される。
壊れた時計を探している女は、自分の時間も失っている。拾った壊れた時計を届けることによって自分の失った時間は償われるのか。
常識的に見える駅員の中の先輩が、所用で事務室を後にすると眼科の医師と名乗る中年の男が尋ねてくる。彼は残った若い女性事務員の眼が将来を見る力を失っていると告げる。
彼女はその日の客たちの言動から己の存在に懐疑的にならざるを得ない。
大型トラックが駅舎に突っ込んで壁に大穴を開けたと通行人が知らせる。それも事実なのかどうか……それを知った駅長が飛び込んでくるが、実は事務所の扉にはガラスがない―
そして待合室の大時計は何度も停まる―
一つ一つのエピソードがくどくて長すぎ、とくに一人芝居の部分は繰り返しが多く飽きるのだが、哲学的なモチーフは抒情詩のごとく、じんわりと柔らかなショックを感じさせられた。