演 目
エル・スール/映画
鑑賞日時/09.1.18.
スペイン・フランス合作・1983年制作
脚本・監督/ビクトル・エリセ
上映形態/アートホールシネクラブ
劇場名/アートホール東洲館アトリエ

父と娘

 1957年秋の早朝、目覚める少女のカットからこの映画は始まる。ところはスペインの北の方にある田舎町の郊外。
一家は事情があって南の大きな町を逃れて来たのだ。8歳の少女が15歳に成長するまでの父親との関係が描かれるが、全編、冒頭のシーンのようにしっとりと、のんびりと美しい。
ビクトル・エリセという監督は『ミツバチのささやき』という衝撃的な作品の印象が強く、それは社会的な大きな背景が感動的だったのだが、この『エル・スール』という作品には初めそれが感じられず、ひたすら大人の世界に惧れと関心を向けざるを得ない少女の心境を、大自然の豊かな時代の田園風景を背景に描かれるのが、切なく美しい。
だが、最後に父親が自殺して、娘は父親の秘密を知る。それは父親の政治的な苦悩での北方行きであったのだ。
成長した娘は、父の故郷の南の町へと旅立つ。そこはおそらく大人の苦悩と希望の世界だ。「エル・スール」とは、「南へ」という意味のスペイン語なのだ。
一見、静謐な田園風景の中での少女の成長物語が、父親との関係の中、それも社会的背景が炙り出される形でしっとりとした映像美の中で描き出されたのだった。