演 目
秘密の花園
観劇日時/09.1.6.
劇団名/東京乾電池
唐十郎×東京乾電池
作/唐十郎 演出/角替和枝 舞台監督/浅沼宣夫
照明/日高勝彦 音響/原島正治 
音楽/朝比奈尚行・鈴木光介 衣装/西村喜代子・麻生絵里子・松元夢子
美術/血野滉修 大道具/山地健仁 
小道具/高田恵美・吉川靖子・岡部尚
演出助手/立石智一・鈴木美紀
宣伝美術/沖中千英乃
制作協力/潟mックアウト
制作/褐団東京乾電池
劇場名/東京・下北沢・ザ・スズナリ

純愛悲恋物語

 突然の観劇だったが、大好きな一番前に座ることができた。ところがそこは大きな照明道具が設置されていて、脚を伸ばすことも出来ない。座布団に小さく座り込んで胡坐をかくような窮屈な姿勢で、目の前の舞台を観ることにする。
2時間20分、途中休憩が10分あるとはいえそれがちっとも長くは感じられないくらいの芝居、あえてここは演劇とは言わず芝居の面白さを堪能した。
時代はおそらく60年代、騒然とした世情とは違う別の世界のような東京下町の日暮里。薄暗い舞台にみすぼらしい6畳一間の安アパートが見えている。突然、大音響のSLの汽笛が響くと重々しいSLの走行音が客席一杯に鳴り響いて幕が上がる。
日暮里は、その名の通り日が暮れてからの街、キャバレーの多い街。この6畳間はそのキャバ嬢・いちよ(一葉=高尾祥子)の部屋。
安サラリーマン・アキヨシ(=戸辺俊介)は、一葉(いちよ)の部屋に通いつめているが、お人よしのアキヨシは、一葉のヒモ・大貫(=ベンガル―ダブル・キャストで谷川昭一朗)にその給料を丸ごと掠め取られている。
大貫もアキヨシが金主だから大いに友好関係を保つが、アキヨシは逆に友情を感じてしまうほどだ。
一葉は、このあたりのボス・殿と呼ばれる男(=綾田俊樹―ダブルで西本竜樹)の甥・かじか(=工藤和馬―ダブルで田中洋之助)に惚れられて指輪を渡されているが、菖蒲湯の日までにその指輪を返さないと結婚詐欺にされてしまう。
アキヨシはその代わりにと、姉・もろは(双葉)から貰った指輪を差し出す。アキヨシは関西への転勤が決まっていて、その指輪は姉の勧める女性との婚約指輪だったのだ。
煮え切らないアキヨシに絶望したのか、一葉はトイレで首吊り自殺をした。この場面の迫真力は物凄く、6畳間に隣接するトイレのドアは、観ている僕の目の前に突然現れ、そのシーンは月並みな言い方だけども背筋がゾクゾクッとするほどの衝撃であった。
一葉は可憐でありながら生活力が強く、しかもいきなり自死するなどナーバスな人柄は見事で魅力的な女性を演じていた。一方アキヨシは信じられないくらいのお人よしなのだが、憎めない哀れみをさえ感じさせシンパシィを持たせて、二人の掛け合いはテンポの良さと同時にギリギリの下品さも表現して芝居の面白さを感じさせる。
この部屋を離れられないアキヨシを、姉のもろは(双葉=高尾祥子・二役)が訪れて、姉弟の生い立ちを話す。それによると姉・双葉は夕焼けの坂を転がり落ちて来てアキヨシの姉になったので血縁関係がないということであった。
アキヨシは、双葉と瓜二つ、もちろん二役だから当然だが、おそらくアキヨシは姉・双葉に強いコンプレックスを持っているから一葉にぞっこんだったのだろうと推測できる。だが姉という感覚が一葉の手を握ることさえできなかった。一葉はそれが歯痒かった最大の原因であったのか?
一葉は一命を取り留めて、今はかじかの経営するバァーで下働きをしているらしい。悶々と進退の決められないアキヨシ……
そこへ御高祖頭巾を被って顔を隠した一葉が尋ねてきてアキヨシの心を知ろうとする。頭巾を脱いだのは一葉ではなくて姉の双葉であった。
台風の雨と大風と雷鳴の中、ずぶぬれで逃げ込んだ一葉を追ってかじかが彼女を取り返しに来る。窓や開け放したドアから本水が吹き込んで舞台全面が水浸しになる……
一葉のアキヨシに対する心を知った大貫は、一葉と同じトイレで首吊り自殺をする。同じシチュエーションなのだが、やっぱりその迫真力はゾッとする。
浸水が激しくなって消防団長(=柄本明)がボートを持ち込み、全員避難する。残った一葉がトイレへと消える。
悪い予感のアキヨシがドァを開けると、猛烈な風と枯葉が吹き出して、そこには誰も居なかった……
フト見返るとそこにはさっきのボートに乗って彼方へと去って行く一葉の姿が……
ここで一旦幕が閉まり、再び幕が上がるとアパートは取り壊され廃墟となった一室を眺めているのは、いまや関西でサラリーマンを続けるアキヨシが、さっぱりとしたスーツ姿で立ち尽くしていた。
そしてそこに夢のように現れるのは双葉であった。双葉は一葉でもあった。そうか! アキヨシの前に現れたキャパ嬢の一葉は、双葉を介したアキヨシの幻想だったのだろうか?
甘酸っぱく哀しい、昭和の時代の青春悲恋物語だったのだが、唐十郎のいう「メタフアー」は、この場合何であろうかと推測するのが難しい。
まさか日・米関係を象徴させていると考えるのは、深読みすぎるか?
その他の出演、上原奈美・江口のりこ・伊東潤・上田知和・岡部尚・杉山恵一・山地健仁・大多葉子・関典子。