演 目
ウルリーケ メアリー スチュアート
観劇日時/09.1.4.
劇団名/TPT
公演回数/70
作/エルフリーデ・イェリネク
訳/山本裕子 台本・演出/川村毅 装置/石原敬
照明/笠原俊幸 衣装/萩野緑 音響/藤平美保子
舞台監督/松下清永
劇場名/ベニサンピット

政治の世界の暴力とテロの展開

 この戯曲は、パンフレットによると、「スコットランドの女王とイギリスの女王の対立をモチーフとした、シラーの戯曲『メアリー・スチュアート』を基に、オーストリアの04年度ノーベル文学賞作家・エルフリーデ・イェリネクが、ドイツ赤軍派のウルリーケ・マインホーフvsグードルン・エンスリーンの主要女性メンバーの対立を重ね合わせて書いたものである。」と解説されている。
つまり、政治の世界での女性リーダーの追い詰められた場面での暴力とテロの展開を描いたものだが、台本・演出の川村毅は、さらにその上に日本赤軍の実録を重ねた三重構造に構成した。
ただし、これらのことは今紹介した当日パンフレットの解説を読まないとほとんど何も判らない。全編、延々としたモノローグが多く、ヒステリックにそれぞれの人物が、個人感情を暴発させているような印象が強い。
ホームレスとヒロヒトを一人の役者が二役で演じるというのもあざとく説明的だ。しかもこの二役はちょっと浮いた感じで、本編との関わりが見え難い。
気になったのは、連合赤軍の平野・塩見・植垣の三人が映画『実録・連合赤軍事件』の監督・若松孝二と激論するシーンだが、実はこれはこの映画『実録・連合赤軍事件』のパンフレットのために行われて記録された座談会の一部であり、印象ではそれぞれが自分たちの正当性を主張するだけのような感じだ。
つまりこれを含めて、すべては自己主張のツバ競り合いによる崩壊物語と言える。
ラストは上空から直径1b半ほどの大爆弾が降りてくるとホームレスがその球を振り子のように揺らし、すべての登場人物が風に煽られるように右往左往し、やがて強風に吹き飛ばされるように舞台背後の扉が開かれて夕闇の迫る街の中に放り出されて行くのであった。
女性の権力闘争に留まらず、政治一般を虚無的に象徴的に表現したような後味の悪い感じで暗くなる。それが現代という醜怪な現実の一つなのかも知れない……
そういえば全く異なるけれども、先日観た「AND」の『ドロップ サムライ キャンデー』も最後は大爆弾の破裂であった。世の中の状況が、爆弾の破裂でしか解決しないのであろうか?
出演は、手塚とおる・小林勝也ほか総勢24人。
ちなみにこの公演が長年親しまれた「ベニサンピット」の最終公演で、このあと取り壊されることが決まっているそうである。