2008年12月
演 目
メリーさんの羊
観劇日時/08.12.16.
劇団名/平和の鳩
公演回数/2008冬公演
作/別役実
劇場名/シアターZOO

大人の芝居

 10年前に退職した鉄道員・男1(=横尾寛)が、自宅に模型の鉄道を作り、そのレールの上を走るSL列車を支配している。
そこへ若い男(男2=清水友陽)が来る。退職鉄道男は、自分勝手な論理でこの男を支配しようとする。この時点では、この芝居は無意識の支配と被支配の原点を象徴させる意図なのかなと思う。
しかし場面は徐々に変化する。模型のレール上を走るSL列車が停まる駅のホームには、メリー夫人と息子のトム、愛犬が主人の帰りを待っている。これらはすべて小さなフイギュアだ。
乗客の夫は、転轍機の操作ミスで起きた衝突事故で亡くなった。退職鉄道員は、その転轍機の操作担当者であった。しかもメリー夫人の恋人であり、従って夫との三角関係にもあった。
今日尋ねてきた若い男は、あのホームで列車を待っていた息子トムの30年後の姿であったのだ。
トムによると、母のメリーさんは父と退職鉄道員との関係を清算してくれたことを感謝しているという。
しかし今日ここに来たトム君とは本当にここへ来ているのだろうか? 退職鉄道員である男の30年来の重い想いを勝手に都合よく納得させるための妄想なのではなかろうか?
30年前のどうしようもない男の屈折した想いを自分だけの納得の仕方で処理しようとした悲しい物語ではなかろうか?
ラストに出てくる若い女(=中塚有里)は、男の娘であろうか? 彼女の前では我を取り戻したかのように大人しくなった男の悲哀……
人生を取り戻せない男の哀切が客観的には滑稽に物悲しく描かれる。静かな、大人の、最近珍しい物語の芝居であった。
女はトリプルで深澤愛・高子未来の出演。