2008年12月
演 目
引き結び
観劇日時/08.12.13.
劇団名/北海学園大学演劇研究会
公演回数/第55公演
脚本/中村聡 演出/村上義典 
音響/石沢治郎 照明/諸中愛
劇場名/BLOCH

一方を引くとすぐ解ける結び方

 「引き結び」を普通の辞書で引くと「帯の結び方の一種」としか出ていなくて、僕のもっている5冊の辞書を見ても、どの辞書もそういう説明しか書いていない。
ところが「slipknot」をリーダース英和辞書で引くと「(引き結び)一方を引くとすぐ解ける結び方」と出ている……う〜〜〜〜ン……
大学の演研(劇団)はその年度によって作者・演出・役者がガラッと変るから、出来具合もずいぶんいろいろと違いが出てくる。
しかも北海学園大学演劇研究会の場合、会員が多いから2班3班編成となり、その班によって大きく味わいが異なっていたりする。今年の5月に観たこの演研の舞台がまさにそうだった。
今回はそのうちの1チームしか観られなかったのだが、その報告をしよう。
男子学生・一輝(=菅原啓太)は、独立して部屋を借り、ここで彼女・香澄との共同生活を夢見る。ところがこの部屋で怪奇現象が起き悩まされる。それは若い女性の思いが篭って現れる現象のようなのだ。だが香澄には感じられないようで彼女は平気のようなのだ。
その顛末が、両親(=島田章広・波田野美紀)や友人たち(=竹原圭一・千葉一翔・松川将也・門間友希)、不動産業者(=竹内梨絵)や医者(=木山正太)も巻き込んで様々に展開され、やがてその亡霊らしい女性は、この世に生を享けられなかった一輝の姉・雪江(=井上奈美)が弟を守るために現れたことが判る。
これは結局、家族や友人たちの理解と愛情とに包まれて、一人前になってゆく男の夢物語であろうか。言い換えれば挑戦のない軟弱で平和な物語とも言えるのだ。
こういう物語を、プラズマニアの谷口健太郎仕込の、叫び走り廻って表現することで外観的なエネルギーを感じさせるような造りだ。
暗転が多く目くらましの逆光も多用、刺激的だが余りに多いと衝撃力が逆に弱まる。初演出の新人が、これでもかこれでもかとエキサイトして微笑ましいが完成度としては逆効果であろう。無駄な暗転と思われるその刹那のあわいあわいにフト見え隠れする女の存在が、何者? と思わせてミステリーじみて印象に残った。