2008年11月
演 目
新版 二人の天使
観劇日時/08.11.13.
劇団名/富良野塾OBユニット
作・演出/小林彰夫 舞台監督/東誠一郎 舞台進行/大山茂樹 美術/浅田直人 照明/広瀬利勝・遠藤大輔 音響/三浦淳一・松本りき
制作協力/森上千絵・水津聡・久保明子・金井修 制作/太田竜介
劇場名/たきかわホール

「♪神田川」の世界のシチュエーション・コメディ

 もう若くはないケンジ(=石川慶太)は、脚本家を目指して修業中、その夢を信じてディスク・ジョッキーとして働き支える、これも30近いヨウコ(=富由美子)。
自分のケンジに対する愛が信じられなくなるヨウコ、自分の才能に苛立ちながらもヨウコに優しいケンジ。
「ただ貴方の優しさが怖かった」という、その優しさを何処まで信じて良いのかという、「♪神田川」の世界だ。
二人の感情の行き違いから絶望したケンジは、アパートというよりマンションである二人の棲家を出る。
ちょっとした切っ掛けで二人の愛が戻り、そのときケンジが応募していた作品が大賞受賞という連絡が入るハッピィエンド、この古臭いと言うか、切ないと言うか、予定調和というか、その物語が『ウイズアウト・ユー』のメロディで始まって最後にそのメロディで終わる。
この予定調和がなぜ面白いか? というと、この二人に絡む見習い天使の存在である。ドジな事故で死んだヤクザの男(=久保隆徳)とその情婦(=来栖綾濃)は天使見習いとして、それぞれ生前の生き方による点数を与えられ、点数の増減によって行き先がきまる。そのため二人は、以前に住んでいたこのマンションに住み着く。
もちろん若い二人には亡霊の天使見習いの姿は見えず、声も聞こえない。男はケンジに同情的に動き、女はヨウコにはっきりとケリをつけさせようと焦る。
この四人の行き違いの絶妙なバランスが爆笑哄笑を呼び、さらに人間界との接触は減点されるルールのために、違反の度にチーンと鈴が鳴るのが切迫感を強めて追い込んでゆく。
ヨウコがケンジに内緒でアメリカに行こうとして取りやめ、チケットを屑篭に捨てる。戻ったケンジがかねて頼まれていたトイレの電球を最後に取替え、そのパッケージを屑篭に捨ててそのチケットを発見する。
或いは義絶されていたアメリカ在住の兄に、大賞の賞金で一緒に兄に会いに行こうなどという細かな布石がリアリティを保証して楽しめたのだった。
偶然この家には、昔、彼らが使っていた鏡があった。それは貧しいケンジがヨウコのためにリサイクルショップで買ったものだ。
その鏡にはなぜか天使見習いの姿が映り声が聞こえる。だがそれは減点の大きいルール違反だ。それを知りつつあえてそれを使う天使・男の、人の良さとだんだんそれに引き込まれる天使・女が微笑ましい。