2008年11月
演 目
雁野博士の憂鬱
観劇日時/08.11.6.
劇団名/Theater・ラグ・203  公演回数/4年ぶり新作本公演
作・演出/村松幹男 照明/佐藤律子 音響/伊井章 音楽/今井大蛇丸
宣伝美術/久保田さゆり 制作/たなかたまえ・福村まり・鈴木亮介
劇場名/ラグリグラ劇場

ニヒルズムの先にあるもの

 功なり名を遂げた鳥類学者の雁野博士(=村松幹男)は、学問関係秘書(=湯澤美寿々)、マスコミ関係秘書(=田中玲枝)そしてプライベート秘書(=田村一樹)の三人に囲まれて一分刻みで深夜までの時間管理に嫌気がさしている。
冒頭、珍しくフケメークの老人役で登場した村松は、この三人とのやりとりを戯画化した表現で一気に巻き込む。
その日は13年前に亡くなった最愛の妻との思い出の中で妻の亡霊(=斉藤わこ)と結婚記念日のワイングラスを傾ける唯一の心安らぐ日でもあった。
誰にも断りなく急に不在となった博士の行方を案じて大騒動となる三人の秘書たち……博士の机上に残されたテニスボール位のサイズの透明の球体の中は、何かが鼓動しているようでもあるし、宇宙のように膨張したり収縮したりしているようにも見え、ときどき光る不思議で謎の物体だ。
一方、若い日の博士(=平井伸之)と同行の助手(=吉田志帆)とは幻の湖を発見し、そこで無数の雁が飛び立つのを目撃するが道に迷い山中に野宿することになる。そこで喜びを分かち合った二人は結婚の約束さえする。
そのときバレーボール位の大きさの透明な球体が転がり込んでくる。中で鼓動したり膨張・収縮を繰り返したりときどき発光する不思議で謎の球体を大事に保管する。
そのとき現れた謎の三人組(=柳川友希・藤原博之・高谷友美)は不思議な言葉を発するが実は日本語も使えることが分かる。この辺は荒唐無稽なナンセンスギャグで笑わせる。
実は彼らは幻の秘宝を秘める湖を求めて永遠の旅を続ける流浪の人たちであったのだ。
球体が光るとそこへ現在の秘書三人と亡妻が現れる。この球体は宇宙の象徴であり人生の象徴でもあるようだ。
集まった9人は、酒盛りをしながら、人生について宇宙について、幻の秘宝について、鳥類の研究について、そしてさらに現在の博士と若い博士との人生観についての激論となっていく。そして小さくなってしまった謎の球体……
このシーンは彼方の大きな球形の中に浮かぶ現在の博士が視覚的に非常に美しい。もう一つ最初は舞台袖にひっそりとあった博士の机が暗転の一瞬後に見事な研究室になったことだ。この狭いラグリグラ劇場にどういう仕掛けがしてあったのか? さらに謎の物体をどうやって光らせたのか、今回はエンターテインメントとしても見所が満載であった。
さてところでこの虚無の博士の最後はどうなったか? 再び元の研究室で亡妻とグラスを交わす博士でありました。