2008年10月
演 目
転がる小春にコケは生えない
劇団名/Real I’s Production
観劇日時/08.10.2.
作/遠藤雷太(エンプロ) 演出/弦巻啓太(弦巻楽団)
照明/相馬寛之 音響/橋本一生 衣装/木島里美 舞台美術/高村由紀子 舞台監督/上田知
演出部/小野寺大・前田枝里子 フライヤー/石上えり 制作/籔内佳子・齋藤由衣
プロデューサー/ヨコヤマカツトシ
劇場名/BLOCH

シュチュエーション・コメディを目指したが……

 樋口小春はある大学の国文科の学生で、卒業論文の執筆中である。友人たち(福地美乃・原田充子・高橋真人)や先輩(三富香菜)などと巻き起こす騒動の顛末。国文学という極めて特殊な世界、一種のオタクっぽい世界を笑いの対象にした意図は何なのか? 一般には覗きみられることの少ないいわゆる象牙の塔の中も普通の人間の世界と同じだという、単にそれだけのことか……07年8月、弦巻啓太が『ユー・キャント・ハリー・ラブ』という初老の英文学教授の世間知らずで未成熟な精神構造を笑い飛ばすコメディを書いている。
小春が、もがけばもがくほど悪循環で不利な立場の深みへ嵌って行くという、いわゆるシュチュエーション・コメディであるが、その追い込まれ方が予測される範囲内であったり、リアリティを根拠にしていないので退屈する。
たとえば、物語の発端である、汚した貴重本を乾かすために窓辺に置くのだが、これは当然、次の禍、例えば風に飛ばされるとか雨に濡れてもっと酷い状況に追い込まれるなどのことが予想される。
先輩が見失ったメモリイ・チップが花瓶の中で水浸しになっていたのを祈祷で探し当てるというシーンがあったが、おそらくこれは先輩に何かを持つ誰かが意図的に隠し、それをもっともらしく探し当てたように仕組んだと思えるのだが、そのことに説明とか種明かしとかがないから、荒唐無稽になってしまい現実味が薄いバカバカしさだけが残る。
もっと脚本も演出も練り直さなければ作品として成立しないであろう。面白いところに眼を着けたのに消化不良を起こした舞台になってしまって残念なことである。
この作品は後に(11月24日)、深川市の文化交流施設「み・らい」でも上演された。
それを観た感想は二つある。この劇場は舞台も客席も大きく舞台間口は16b奥行き12b、キャパシテイは700であり、札幌で上演したBLOCHは劇場自体がここの舞台の半分以下というサイズだ。
こういう小劇場を意識して創った舞台を、まるで違う劇場ではどうなるのかな? という危惧が大きかったが、逆に、広々とした装置とホリゾントに空を描き、突き抜けた爽快感を感じさせた。
それと全く逆に小春の泣き節が際立って、対照的というかべたついた情緒がまとわりつき、むしろ小春はあっけらかんとする現代の若者であった方が、この背景に合うのではないのか? と思われる。