演 目
遭難、
観劇日時/08.7.19.
劇団名/ダリア・リ・ベンジャミン
公演回数/新ユニット
作/本谷有希子 演出/乙川千夏
照明/佐藤律子 音響/百瀬俊介 音響操作/湯澤美寿々
衣装/佐々木青 舞台装置/フクダ舞台 
小道具/馬場崇臣 宣伝美術/山田マサル
宣伝写真/ヤシマミホ
劇場名/ことにPATOS

悪意の果ての虚無

 去年の8月、東京のテアトルエコーの稽古場劇場で、『e-blood』第8回公演のこの芝居を観た。自殺未遂の中学生の母親と、その教師たちの物語だ。主題は生徒にあるのではない。
モンスターピアレンツと化した母親(=ワタナベヨオコ)に責められる4人の教師たちの、人間の弱みを巧妙に隠しながら自己防衛する滑稽な攻防戦の展開である。
ひたすらな低姿勢に、むしろ快感を覚えているような女教師・江國(=西村光代)、生徒の訴えを無視したことを隠す里見(=伊藤裕子)、江國の隠蔽を察するが逆に脅迫される石原(=ナガムツ)、そして主任教師・不破(=梅津学)は、逃げ回った挙句、母親に篭絡されて手も足も出ない窮地に陥る。
『e-blood』の芝居は、里見が巧まずして自然に他の三人を追い込んでいったような印象が強いのに対して、今日の舞台は最初から里見が仕組んで行った悪意の強さを感じる。
本が良いから演じる力量が勝負だ。その点で成功したと思うが、江國のキャラクターに少し不満がある。もっと弱弱しい可憐さが観たかったような気がする。
『e-blood』の舞台では、生徒の意識が回復し、皆が病院へ行き、一人残った里見は、全てが顕れて大泣きした後、何事もなかったように大きな欠伸をする。
放心した里見が虚ろに見る夕焼けの窓外に吹く風が、彼女の心境のようにだんだん大きく荒れてきてカットアウトというラストシーンが強い印象に残ったが、今回の舞台ではその大風の描写はなかった……