演 目
Sui Site

観劇日時/08.6.19.
劇団名/イナダ組
公演回数/新作本公演
作・演出/イナダ 照明/高橋正和 舞台/フクダ舞台 音響/奥山奈々 映像/山田マサル
舞台部/中村ひさえ・坂本由希子 小道具協力/栗林健司
宣伝美術/小島達子 宣伝写真撮影/奥山奈々
舞台写真撮影/高橋克己 ビデオ撮影/小路篤史 
衣装/稲村みゆき・服部悦子 宣伝広報/岩本圭
制作/小柳由美子・根井聡子・井土雪江・駒野華代・新浜円・岡田まゆみ
劇場名/コンカリーニョ

清純と汚濁

 Sui Site とはどういう意味か? Sui Side には「自殺」という意味がある。そしてsite とはインターネット上での一つの目的を持った人たちの集まりとでも言おうか? つまりSui Site とは、自殺を目的としたインターネット上の集まりとでもいう造語であろうか? 最近そういうサイトがあるという情報を聞くことがある。
舞台は以前ラブホテルだった廃墟である。透明な犬を連れた若い男・安藤浩(=江田由紀浩)が、近くの公園でいつも本を読んでいる女子学生・みさき(=宮田碧)と出会う。お互いに好意をもってときどき逢うがそれ以上にはならない。清純という言葉の代名詞のような関係だ。
透明な犬とはなにか? 求め切れない囲い込めない何者かのシンボル? 潔癖なるがゆえの妥協の産物?
さてみさきが失踪して2週間、当惑した安藤は、頼り甲斐のあるオカマの真矢(=飯野智行)に相談して捜索に乗り出す。これが一つの話。
インターネットのサイトで知り合った5人の人たち、リーダーでパソコンオタクのハンドルネーム・マキこと牧野(=高田豊)、退廃的で不協和な女・ゼルダこと中川(=小島達子)、
破産した中年男・ジャンプこと山田(=武田晋)、高みから見下しているような若い男・カフカこと藤井(=佐藤慶太)、そして最後の一人が中々やって来ない。
人の来ないこの廃墟で集団自殺を実行するべく、最後の一人を待ちながら4人は着々と準備を進める。これが二つ目の話。
調子のいい自分勝手で行動派の大宮(=納谷真大)は、ちょっと知能の足りないようなパートナー・ゆき江(=山村素絵)と、ゆき江に岡惚れしている大宮の親友・遠藤(=野村大)を引き込んで、ゆき江の手引きでゆき江の勤務先の不動産屋を襲う強盗を準備する。侵入口がこの廃墟らしい。
手違いで遠藤は、運転手に普通のタクシーの運転手・篠原(=川井J@ウ輔)を連れて来たから大騒動になる。これが第三の話。
この三つの話が、少しずつ進行しながら交互に展開する。それぞれの話が、微妙にリアリテイを欠いているように見えながら、演技の真実性によってあり得る話として納得させられる。
やがてみさきの家を訪ね当てた安藤と真矢は、父・下村(=黒岩孝康)から、みさきの失踪を知り、彼女のパソコンの受信歴から、彼女がSui Site の5人目の人物だと判り、その廃墟へと向かう。
みさきを加えた5人が実行寸前の所へ、強盗に成功した大宮たちが雪崩れ込む。
5人は自殺に成功し、強盗3人は発生した毒ガスから逃れるために奪った金を放り出す。
安藤だけが生き延びるが、ラスト・シーンは、安藤とみさきの安らかな語らいだ。しかし、これは全てが終わった後のハッピー・エンドじゃない。透明な犬さえ逃した安藤の切ない回想でしかない。
三つのエピソードを絡めながら、ラストに繋がるという技巧をもって、現代の世相の裏側をエネルギッシュに描き出し、エンターテインメントの側面をもイナダ組の特徴で余すところなく表現した最近の快作であった。