演 目
授 業

観劇日時/08.6.17.
劇団名/東京乾電池
公演回数/シアターZOO提携公演
作/イヨネスコ 翻訳/安堂信也・木村光一 演出/柄本明
舞台監督/戸辺俊介 照明/日高勝彦 宣伝美術/蛭子能収
劇場名/シアターZOO
出演/教授=柄本明 女中=西村喜代子
女学生=(日替わり) 高田恵美・阪田志麻・竹内芳織
劇場名/シアターZOO

狂気の眼差し

 個人教授の私塾へ一人の若い女が訪れる。短期間で複数の博士号を取得したいというバカバカしい希望だが、丁重に迎え入れる老教授。
最初は数学ではなく算数という学科、1+1や1+2などという、一般常識ではバカにしたような講義だが、これが面白い。
つまりこの女学生は数学の根本を理解していないのだが、教授はその説明がうまく出来ない。そのやり取りの中で、徐々に教授は焦り、女学生はますます混乱する。
ついに諦めた教授は次に言語学の講義を始める。教授は衒学的に一方的に言語学の薀蓄を語る。それは異常としか思えないような知識の羅列である。教授はだんだん熱狂的に、というより狂的にどうでもいいような単なる知識を喋り捲る。
女学生は突然、歯痛を起こし講義を聴いて居られなくなるだが、教授はその訴えを、強圧的かつ狂的に無視してひたすら喋りまくる。
女中がときどき現れて、言語学は危険だと忠告するが、教授は暴力でその忠告をも退ける。
ついに教授は、女学生を絞殺する。客席に向かってスカートを捲り上げ、のけぞって息絶える女学生。もっとも屈辱的な姿態で死体を曝す。
女中は万事心得た態度で、教授と協力し、死体を運び出す。教授の腕にはハーケンクロイツのマークの付いた腕章が巻かれる。
無人の舞台に、カンカンという棺に釘を打つ音が響いて、次の生徒が訪れるブザーが鳴る。そういえば開幕前にもこの釘を打つ音が響いていたのだった。
疑問を二つ。教授をハーケンクロイツとして限定するのはどうか? もっと一般的な誰にもあることとした方が恐ろしいと思う。だがそれがナチスを育てたとも言えるのだが、やはり限定しない方がいいと思う。
柄本明の狂気の演技は鳥肌が立つ思いだが、ときに理由もなく笑うのが邪魔だ。意識的に怖さを増幅させる笑いではなく、何かにつまずいて思わず出た苦笑いのように感じられたのがちょっと気になった。それにしても怖い芝居だ。