演 目
杭抗(コックリ)

観劇日時/08.6.13.
劇団名/乞局(コツボネ)
公演回数/第14回
脚本・演出/下西啓正 舞台美術/袴田長武+鴉屋
照明/吉村愛子 音響効果/平井隆史 
演出助手/田中元一 舞台監督/谷澤拓巳・棚瀬巧
衣装・メイク/中西瑞美 宣伝美術/サノアヤコ
WEB/柴田洋佑 スチール/鏡田伸幸 
制作/西岡よどみ・民谷柚子
企画制作/乞局(コツボネ)・(有)アゴラ企画
劇場名/こまばアゴラ劇場

60年に亘る日本人論

 今、平和島と呼ばれる東京湾岸地帯は、戦前は海でありそれをゴミで埋め立てて造った人工土地である。戦後そこに戦争犯罪者を収容する刑務所を建てた。
そこに収容された3級(いわゆるC級戦犯)と2級(B級)の二人の戦犯を巡る50年代の話がまずあり、そして話はそれから30年後の80年代、さらに30年後の2010年の頃の話が、それぞれ三つの別の話として交互に展開される。
80年代は先の人たちの子供たちの話であり、2010年代はさらに孫の世代であるが、その三つの話はそれぞれ非常に分かり難い。
50年代の話は戦後の混乱期だから、無秩序・非合理の暴力とゴリ押しのまかり通った世界を象徴するようだ。そして60年後は別の意味で非合理と無秩序の世界らしい。この古ぼけた廃墟のような元・戦犯収容所では、非合法の人工受胎業が行われていて、それも無法地帯であり暴力と権力が支配している末期的世情ともいえる。
それに対して真ん中の時代の話がよく分らない。教師と高校生の話のようだがいまいちピンとこない。全体に悲惨で救いのないような場面ばかりだが、これはおそらく60年に亘る日本と日本人論であろうかと思われる。
二つの問題点がある。まず三つの時代のエピソードをそれぞれに独立させず、小間切れにして交互に演じられるために非常に分かりずらいこと。第二に一人の役者が別の時代に別の役柄を演じるため、混乱すること。
僕はそれを意図的だと解釈し、時代を往復するのは人間の意識が時代に関わらずに共通し、30年でも60年でも、時を離れても古い時代を強く反映させる手段として表現したと感じ、一人の役者が複数の役柄を演じるのも時代を超えた人間のあるDANを表現しているのだと思って観ていた。
アフタートークで、ゲストのチェルフィッチュ主宰・岡田利規氏が、まさにその二点を質問したのに作・演出の下西氏は明確に答えられなかったのにはちょっとびっくりした。
もしかすると天才は自分の表現の真の意味を自覚できていないのかもしれないとさえ思ったのであった。
出演者、三橋良平・玄覺悠子・池田ヒロユキ・野津あおい・大塚秀記・佐野陽一・岩本えり・下西啓正・西尾佳織・村岡正喜・數間優一・墨井鯨子・木引優子。