演 目
双葉のレッスン

観劇日時/08.6.11
劇団名/流山児★事務所
作/ごまのはえ 演出/天野天街 音楽/本田実
美術/水谷雄司 照明/小木曽千倉 音響/島猛
振付/夕沈 映像/濱島将裕 舞台監督/伊東龍彦 
演出助手/藤村一成 宣伝美術/アマノテンガイ
大道具/王様美術 人形製作/サイカニア 制作/米山恭子
芸術監督/流山児祥 
企画・制作/流山児事務所
劇場名/東京・下北沢 ザ・スズナリ

ゴドーを待つノアの方舟

 客席が暗くなると、突然の大音響が驚かす。続いて激しい豪雨の音。轟音は雷の音だったのだ。
「いつまでも雨が止まないなあ」という男の声で、薄暗い部屋が浮かび上がる。古風な豪邸の応接間のような感じだが、何か中途半端な間取りで壁も汚れている。そしてその壁紙がまだらに?げた壁には『思い出す べからず』と書かれた貼り紙が貼られている。
この地区は長雨の結果、団地が水浸しになり被災者が大勢でこの高台にある豪邸へ避難してきているのだ。なんとなく『三人姉妹』の一場面を感じさせる設定のシーンである。
この家の主は、亡霊のような良一(=藤井びん)と双子のような同じく亡霊のような良二(=井村昂)、そして弟の良三。
彼らはそれぞれに何かを探しているらしい。特に良三(=上田和弘)は兄二人が財産を隠していると疑って、執拗に兄たちと、隠し場所を狂的に探しまくる。
その息子らしい蟹坂(=里美和彦)、その妹(=坂井香奈美)は近親相姦的な関係なのか? 良一の妻・鯖江(=伊藤弘子)は介護の男・カイ(=深山洋貴)と不倫の関係らしい。
避難者の父・虫合(=小熊ヒデジ)、母(=木内尚)は、娘(=小林七緒)を探しているのだが、娘はそこに居るのにお互いにわからない。娘もひたすら誰かを探している。
市役所の男二人・西水母(=木暮拓矢)と東雲丹(=武田智弘)も、そこに大勢いるのにその被災者を探している。ことほど左様に、これらの登場人物はすべてが何かを探しているのに全部がちぐはぐになってしまう。
人形を持ち込む男(=甲津拓平)、それに二匹の老犬(=さとうこうじ・流山児祥)まで登場し、別の女・鯖森(=平野直美)は「怖い怖いなあ」と叫びながら、何となく一同の動きを仕切っている。
壁に貼られた『思い出す べからず』の張り紙はすぐに次々と剥がされ破られるが、暗転の度に新しく同じものが貼られ
る。女(=立原麻衣)は、筆をとって、その開いた部分に「てる」と書き入れる。つまり『思い出捨てるべからず』となるのだ。これは分かり易いとも言えるが、余りにも説明的でちょっと引く。
これらの情景は、世界が壊された後に残った人たちが乗った『ノアの方舟』なのだ。タイトルの『双葉のレッスン』も、新しい世界に向かう謂いであろうか。これもちょっと『三人姉妹』に連なる思いがするのだが……
全体に挿話が入り組んでいて、それにエピソードの繰り返しが多く、それが微妙にずれたりして、具体的な事実関係が判り難いのだが、それが逆に一種の不思議な魅力にもなっている。
また表現法もオーバーアクションが多用され、奇妙な動きの群舞もあるが、それらは鍛えられた体の切れ味の鋭さとテンポとスピードが良く、しかもセンスが良いので少しも邪魔にはならず、むしろ感情移入の力が大きい。
摩訶不思議なのに一風変わった魅力とインパクトの強い舞台であった。