演 目
りんご
観劇日時/08.5.28.
劇団名/Theater・ラグ・203
公演回数/Wednesday Theater No,24
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸
音響オペレーター/久保田さゆり
照明オペレーター/柳川友希
宣伝美術/久保田さゆり
劇場名/ラグリグラ劇場

様々な観かた

 今回観て感じたのは、細かな設定が良く計算されているということだ。最初、公園のベンチで屈託して休んでいるサラリーマン山岸氏の顔の周りを蜂が飛び回る。それはこの人物の苛立ちを象徴する。
やがてバッタを見つけて捕獲し、彼は自分のみじめで無力な立場に重ね合わせる。
中盤では、離された犬とその飼い主との口論、彼は犬が嫌いなのだ。そして終盤に近く、父親とキャッチボールをしていて後逸した少年のボールを拾ってやり、その坊やの父親との口論。彼の行き場の無い焦慮の象徴、これらはすべていわゆる無対象演技である。対象になる小道具の無い一人芝居である。
普通こういうエピソードは、伏線として後の話の展開に対して意味を持って来るというのが一般的なのだが、この戯曲にあっては、直球勝負でこの男の心情を拡大して印象付ける役割を持っていて、それを抽象的に無対象で表現したことが実に新鮮で判り易く力強いのだ。
それと関連するが、前回の感想でラーメン屋の場面とかホームレスのシーンで相手役を登場させた方が、厚みを増して面白いのではないか? と疑問を呈して、今も基本的にはその気持ちは変らないが、今日の舞台では、相手役は登場させず、むしろこの孤独なサラリーマン一人を浮き出させた方がくっきりと際立つのかな? とも思ったのであった。
様々な思いを味わわせてくれる何度観ても面白い芝居なのだった。