演 目
りんご
観劇日時/08.5.21.
劇団名/Theater・ラグ・203
水曜劇場企画
公演回数/Vol 6 通算241回
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸
音響オペレーター/久保田さゆり
照明オペレーター/柳川友希
宣伝美術/久保田さゆり
劇場名/ラグリグラ劇場

確固とした戯曲

 待ちに待った名作の再演であり、思い入れの多い作品でもある。今回は正式には再演とあるが、僕は何回観たことであろうか? もっと何回も上演されているような気がする。
山岸役は、作者の村松幹男に代わって平井伸之が演じ、女役は、若手の吉田志帆が初挑戦した。
全体の演出はほとんど変わっていないような印象だ。それは逆に言えば、戯曲がきっちりと書かれているので崩しようがないということか? さまざまな台詞や動きの必然性が過不足なく書き込まれていることが、今更ながら感嘆せざるを得ない。
その中でだんだん窮地へと追い込まれていく山岸氏の心理の展開は、しょぼくれた零細企業の営業マンの悲哀を超えて誰にもある不条理な挫折の悲哀を象徴する。
夢か幻想か? 現実離れのした女の出現という不思議な体験が痛ましい窮地へと心理的に追い込まれていく。
そしてラストの、だれが置いたのか判らない一個の瑞々しいりんご、此処だけが現実の本物のりんごであり、それまではいわゆる無対象演技という、実際の小道具を使わずに、あるように見せて演技をするという方式だったのでこのりんごの印象が強烈である。
毒が仕込まれているかも知れない、そのりんごを齧る意思とは何か? だが齧ると歯茎から生命の象徴である血が出ている。ニヤリと笑う山岸氏のこれからは……で幕となる。
ラーメン屋の場面とホームレスとのシーンは一人芝居ではなく、相手役を実際に登場させると面白いのではないかと思う。一人で演じるのは勿体無いような気がする。