演 目
春の夜想曲(ノクターン)〜菖蒲池の団欒〜
観劇日時/08.3.18.
劇団名/劇団 TPS
公演回数/第25回公演  シアターZOO企画
作・演出・音楽/斎藤歩 照明/大野道乃 音響/百瀬俊介
演出助手/宮田圭子 舞台監督/佐藤健一 舞台監督助手/岡本朋謙 
舞台スタッフ/黒丸祐子・川崎勇人・内田紀子・深澤愛
宣伝美術/若林瑞沙 制作/横山勝俊
ディレクター/斎藤歩 プロデューサー/平田修二
劇場名/シアターZOO

春愁の詩

 シアターZOOのすぐ傍の中島公園の池の中の小島が舞台である。ここに春先の一ヶ月だけ開業する幻のホテル別室があるという設定だ。それもすぐ傍のホテルから地中回廊で結ばれているというのだ。
しかもやはりご近所のキタラホール、体育館、近代文学館、渡辺淳一文学館など、おまけにシアターZOOまで地下回廊で結ばれているという、ありそうでなさそうな少年冒険小説のようなワクワク感をそそる設定である。
ここに東京で孤独な一人暮らしをする病身の叔母(=金沢碧・客演=東京在住)が札幌在住の姪(=宮田圭子)を誘って一泊の予定で現れる。
叔母は重大な手術を迎えて、たった一人の身内である姪に東京へ来てもらいたい。だが姪は札幌で生まれ育ち仕事をしているのだから、今さら東京へ行く理由がない。
この別館ではキタラから音楽家を呼んで生演奏のサービスがある。今日は時間がなくて急遽、地下回廊を通ってチェロの土田英順とピアノの伊藤珠貴が現れた。
実はこの別館の支配人(=永利靖)はチェロ奏者の息子でピアノ奏者の弟という設定。つまりここに二つの家族というか肉親の関係がさりげなく提示される。
叔母さんは死に直面している。ピアニストはダブルブッキングを逃れるために逃亡して氷点下の池へ泳いで逃れる。彼女にとっては慣れているとはいえ、この時期の泳ぎは死と直面せざるを得ない状況であろう。
池の中に作られた露天風呂の浴槽で、池の中から覗かれているような亀の視線とは何だろう。亀は万年生きるという俗説がある。それと人の寿命との対比を感じさせて……
生演奏を聞きながら食べる特製ディナーの献立は「生にしんの塩焼き」「越冬キャベツ」「七つ星の道産米」「日高のわかめ汁」、これ以上ないほど素朴で簡素なメニューは究極の贅沢でもあるという視点。このメニューは全部本物を全上演で用意するという。
このディナーに、叔母はタキシードの正装で現れる。姪との最後の晩餐になるかもしれない覚悟であろうか?
このときの金沢碧は現実感のない、まるで宝塚の男役のような美しさ、いや綺麗とか美しいとかの概念を超えた存在に思えた。死を超えた超絶の美しさであった。
観ているこちらも、少年のような純粋で神秘的な憧れを感じる存在に思えたのであった。
開幕、叔母さんが運び込んだ旅行用トランクの重さには何が入っているんだろうという同行者の疑問。そして叔母さんがラストで本当に流す涙の意味とは何だろうか? と様々なクェッションを残して、そして柔らかな心も残して幕が降りたのであった。
もと札響主席チェロ奏者の土田英順は演奏だけでなく、芝居もやった。いささかわざとらしいオーバーアクションで折角の演奏が割引されたのが惜しかった。素のままの彼が良いという見方もあるかもしれないが、やや芝居をしようという意識が見え過ぎたようだ。
その他の出演者、別室付きのホテルのボーイ(=木村洋次・佐藤健一)、別室付きのホテルの賄婦兼メィド(=山本菜穂)。