演 目
ビューテフル☆サンデー
観劇日時/08.3.16.
劇団名/ミュージカル工夢店
公演回数/春限定☆工夢店↑18(18歳以上)
作・演出・広報/寿福愛佳 音響/佐藤自真・中村悠貴 照明/藤村健一 舞台美術/藤村健一・胡麻崎奨
会計/宮田千晶 衣装/千葉妙香 渉外/佐藤万里子
劇場名/深川市中央公民館

家族愛の物語

 ビユーテフル・サンディ』というと思い出すことがある。一般的には田中星児がカバーしたポップスの名曲を思い浮かべるのだろうが、僕が強烈に思い出すのは、03年12月に岩見沢マルチメデァセンターホールで上演された「@enGeki.net」第5回公演、中谷まゆみ・作の『ビューテフル・サンディ』である。
物語は、ゲイの男二人の生活の中に偶然舞い込んだ女との三人の奇妙な関係を描くのだが、当時の感想から必要部分を再録しておこう。
「三人三様の善意の行き違いが絡み合って、最後に(中略)ベランダに並んだ三人が、浩樹が用意した楠玉を割って散った紙ふぶきを、窓外に撒き散らす哀切で美しいシーンで幕が閉まる。」「台本の良さもあるが、その良さを過不足なく舞台化したこの集団の力は中々のものがある。」以下その理由を長々と述べている。
さらに「まったく舞台の条件のないホールに三段構えの間口の広い舞台を造ったのだ。この設営は観客席との親和感が強く、広がりにリアリティが感じられる。幅の広い奥行きの深さまで感じられる良い舞台を創っていたと思う。」とも書いている。
何が言いたいかというと、この舞台の設営である。もともとこの中央公民館のホールは、いわゆる講堂であって昔風の床面の高いステージがあるだけで、客席は平土間。廊下からの扉には外部の明りを遮断するスペースもなく、ホール全面には窓が開き、照明設備は全くなく、音響効果がまるで悪く普段その中での会話は反響が大きく聞き取るのに疲れる気がして、およそ演劇を上演する場所としては行きたくないようなスペースである。
なぜ此処でやったかというと、此処だけが公的施設で使用料が無料だからだ。岩見沢のホールは同じような条件であったが、音響の響きだけは余り手を加えずともそんなに気にならなかったのだが、さてこのホールはどうだろうか?
開演20分前、入ってみて驚いた。ステージ下の平土間がある家庭のリビングになっている。本来のステージには高さを利用して別の部屋が造ってある。そして上下(左右両袖)はさまざまなパネルを利用して巧く隠している。
一番感心したのは、客席最前列と舞台空間との仕切りに、和風の華やかなパッチワークを施したパネルを敷き、それをやや客席側に傾斜をつけて置いたことだ。
舞台と客席の仕切りにとどまらず、この家庭の雰囲気さえ表わす意図を感じさせ、しかもその舞台側に少し高く傾斜させたパネルの下には、演技中に必要な小道具まで潜ませるという完成度。
客席に畳敷きを敷いたことにより音響は全く気にならず、さらに客が160人入ったことにより悪い音反響は全くなかった。素晴らしい劇場造りといえよう。
話の内容は巻末の清水真由美による寄稿に任せて、一言で言えば「ハートウオーミングな家族愛の物語」といおうか、ともあれ、この集団の新企画による挑戦に敬意を表わして、
登場人物を紹介しよう。それの役柄を見れば物語の内容も想像できるのではないのだろうか?
ある家庭を訪れたメルトモの若い男・松下大樹(=宮田哲自)、大樹が初めて会う、ある事情をもって傷ついているメルトモの若い女(=千葉妙香)、お父さん(=佐藤自真)、お母さん(=中村真由香)、おばば(=宮田千晶)、死んだおじい・田吾作(=桜庭忠雄)、精神科カウンセラーの先生(=佐藤万里子・三ツ井志帆)、霊能者(=寿福愛佳)、強盗(=菊地清大)。
さて、僕は気になった点だけを提言することにする。
ミユージカル劇団が歌も踊りも全く使わなかったことは、覚悟の程が感じられるが、演出の弱さによるテンポの崩れと乱れと空白が何度かあったこと。話の展開や飛躍は許容範囲だがラストの説教調が長すぎていささか飽きる。
というような瑕疵が散見されたが、ミュージカル工夢店は着実に力を着けている。このエネルギーには敬服する。