演 目
おバカな高校演劇対決! 〜三すくみ頂上決戦〜
観劇日時/08.3.14.
劇場名/教育文化会館小ホール


札幌・小樽の高校演劇実力校三校が、いわゆる高校演劇の「青春の悩み」とか「社会派正義」とかいう定番を飛び出して、「受け狙いの歌や踊り」や「ゾンビや仮面ライダー」やらを演じたらどうなるか? というおバカ路線の合同競演をやることになった。
しばらく実力派の高校演劇を観ていないが、力のあるところはヘタな劇団より数等も見応えのあるところが結構多い。
高校野球だって即プロで活躍する選手がいるんだから、演劇だってそういう人たちが居たって不思議ではないのだ。
大いに楽しみに早速拝見をすることになった。17時から1時間づつの持ち時間、装置転換の20分を挟んで合計3時間40分、終演は8時40分の予定であったが、実際に終わったのは9時であった。

演目/Ojimaからの手紙

劇団名/札幌北陵高校・演激(註・原文通り)部
台本/にへいこういち(顧問)
演出/小林可奈 音響/一関美咲 菅野紗彩
出演/生徒会長=小林可奈・会計監査=吉田里乃・副会長=加藤エリカ・書記=田中友梨恵・庶務=藤居珠里・会計=波連早恵子・コロス=野口紗矢、工藤早紀、山本里菜、柳谷文香
この学校の演激部スタッフ・キャストは、すべて女生徒であるが全国大会出場常連校である。

完成度の高い表現技術

 意外とシリアスな物語である。映画『硫黄島からの手紙』の駄洒落で付けたタイトルは、いまいちだが洞窟に篭る旧日本軍の兵士たちと、生徒会に篭る高校生徒会の幹部たちをダブらせたお話である。
生徒会は教師の下請けであり、生徒たちの奴隷であるという自虐告白、そしてOjimaさんからの手紙で立ち直る生徒会の幹部たち。
だから物語り自体は、否定したはずの「高校生・生徒の悩み」とか「社会正義」のストーリィのように見えるが、おそらくそのこと自体を否定しているわけじゃないと思われる。要はその表現意識の問題だと思う。
つまり問題意識を肥大化させて生真面目な面白くない説教調や大上段に振りかぶる表現の臭みに拒絶反応を示したかったのではないのかと思う。
まずその6人の役員たちの個性が際立っていることだ。特に引っ込み思案の吉田理乃が一度自分を表わす時の豹変振りが意外性をもって魅せる。
その他の人たちも表情の豊かさも身体の切れも抜群で、それぞれが個性と統一の見事な演出と演技力の表現でまったく全編、隙なく魅せた。
コーラスの四人がほとんどセリフがないのに、四人とは思えない変幻自在で厚みを感じさせた群舞は素晴らしい効果で、完成度の高い舞台を堪能したのであった。


演目/偽典・HEAT RASH

劇団名/札幌西高等学校演劇部
作・演出/村上孝弘(顧問) 舞台監督/長谷田茜 大道具/瀬尾順子 音響/高橋茉優・今井悠貴
照明/手間本千歩 衣装/近藤安佑子 小道具/北澤愛 舞台撮影/川野目明日香
出演者、若林大志・田村貴大・茅原一岳・岡田彰悟・近藤安佑子・北澤愛
この高校も、全道大会出場の経験を持つ有力校だ。

ゾンビに象徴される人間の暗黒面


 ゾンビとは、人間の残酷性・凶暴性・欲深さ・利己心といった心の暗黒面を象徴して、究極の事態に相対したときの人間の変貌……暗黒面の噴出……にある。と作者は解説している。だがこれはそんなテーマと無縁なゾンビというキーワードつながりのお遊びだとも断っている。
だがそのナンスンスも侠雑物が多すぎて、たとえばゾンビに受信機を着けてマイクで行動を命じるとか、関西弁のオネエ言葉の男とか、それらが無意味に作り物めいて、さらに中途半端に不徹底なのも白ける原因なのだ。やるのならもっと徹底的に突っ込めと言いたい。変に遠慮が邪魔している感じなのである。
話は、なぜか和風割烹料理のライブハウスの楽屋で、出演のハードロックバンド「HEAT RASH」のメンバーが次々とゾンビになっていくテンヤワンヤの騒動だが、全体にテンポが緩いので物語が弾まないのも重大な欠点だ。
高校生は一人前だというのが僕の信念だが、なまじ信じ切れなかったのであろうか?



演目/迫る初夏

劇団名/小樽桜陽高校演劇部
作/天野俊浩(顧問) 照明/山本奨馬 音響/伊井泰大 道具・衣装・メイク/桜陽高校演劇部
舞台監督/吉田慎平 協力/石森プロ様
出演者、川口岳人・森本匠・七戸友樹・能戸大樹
長江綾佳・泉凛菜・西岡良晃・伊井泰大

エネルギッシュでバカバカしい怪作

昔ショッカーの隊員であった老人は、もう一度の世界征服野望を忘れず、怠惰な日常のなかでも精進の心と肉体の鍛錬は忘れていない。3人の孫の長男は不登校の高校生である。二人の弟たちはやんちゃなガキどもである。
ショッカー隊の同窓会の通知を待ちわびる老人……不登校の長男を鍛えようとする老人、不承不承の長男、その日常……
隣家の老人は元・正義の味方のホンゴウさんであった。ショッカー隊の同窓会が中止になり生きる目的を失った老人をみて、俄然燃えた長男は、隣家の老人を焚きつけて対決を申し込む。タイトルの初夏はショカーであろう。
前半、老人と長男と家族のやり取りが、ちょっとかったるくて退屈するが、家族を巻き込んだ二人の老人の超ナンセンスな決闘は、若さ溢れたエネルギッシュでバカバカしく迫力がある。
おバカサン度では随一であろうか。その上に様々な向日的な対立項を交錯させて、好感がもてる怪作であった。