演 目
ボクサー
観劇日時/08.1.23.
Wednesday Theater Vol 18
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸
音響オペ/柳川友希 照明オペ/平井伸之 宣伝美術/久保田さゆり
劇場/ラグリグラ劇場

見えてきたもの

 二回目の観劇は少し冷静に観ることができたようだ。初見での受け取り方が深まってくる想いだ。
元・恋人(=久保田さゆり)は自分の許から無断で失踪した男(=田村一樹)の行方を捜していた。女はささやかな家庭を夢見ていた。男もそう思っていたはずだ。
6年後、男は異色のプロボクサーとしてバンタム級3位にランクされたというスポーツ新聞の小さな記事を発見する。早速彼に会ってボクシングをやめるように言うが、彼は応じない。
やがて、無敵のチャンピオンとタイトルマッチが行われるということを知る。男は無謀ともいえるチャレンジに猪突猛進する。リングサイドの女は、インターバル毎に男と心の会話を交えることによって、過去から現在に至る経過が露になる。
男は26歳という遅すぎる入門だが、地道に精進した結果、ランキング3位まで上り詰めたフアイターであるが、相手は21歳全戦KO勝という天才ボクサーである。
打たれても打たれても、ダウンしても倒されても、フラフラになりながらも立ち上がり、圧倒的な点差ながらとうとう最終回へと持ち込む。
だがついに最後のダウンでは起き上がれない。このシーンに被さる単調な蝉の鳴き声が、なぜかあの1945年8月15日に重なるのだ。
この男が打ち合い中に吐露する真情が、彼の心情とのダブルイメージとして、大きな暗い壁のようなもの(この語句はたしか宮澤賢治か小熊秀雄にあったと思って調べたがついに不明であった)に立ち向かっていく、止むに止まれぬエネルギィとして戦後史の一片を描き出し、それが1945・8・15を引きずったものとして感じられるのだ。
久保田さゆりはさすがに成熟した女性の情感が感じられ、前回の吉田志帆の鬱屈した若さとは好対照であり、それぞれの良さは充分に表現されたというか地そのものという感じもあるが、この芝居に関しては久保田さゆりの方に一日の長があったようだ。
田村は誠実に力いっぱいに演じようとすることが、台詞を一種のパターン化する要因になったようであった。