演 目
わが闇
観劇日時/08.1.17.
劇団名/NYLON100℃ 
公演回数/31st session
札幌えんかん1月観劇会
作・演出//ケラリーノ・サンドロヴィッチ
舞台監督/福澤論志+至福団 舞台美術/中根聡子 照明/関口裕二 音響/水越佳一 映像/上田大樹
大道具/C-COM舞台装置 小道具/高津映画装飾 演出助手/山田美紀
劇場/道新ホール

家族の崩壊

 作家の父親・伸彦(=廣川三憲)とその妻(=松永玲子)そして三姉妹の長女・立子(=犬山イヌコ)、次女・艶子(=峯村リエ)、三女・類子(=坂井真紀)の五人家族は、長女が8歳・次女6歳・三女3歳のころ、父の作家に心酔する書生・三好(=三宅弘城)を伴って小さな村に移り、父親は小説に専念した。
母は精神に異常を来たし自死する。父は少々派手な行動と思考の浅いとしか思えないような軽薄な女・志田潤(=長田奈麻)と再婚する。立子は10歳で「わが闇」という家族の物語で作家デヴューし、父・伸彦は嫉妬する。
30年後、老境に入った作家に心酔する映像作家・滝本(=岡田義徳)は、大学時代の後輩・大鍋(=大倉孝二)を助手に、パトロン・飛石(=松永玲子・二役)を後ろ盾にこの作家のドキュメント作成のためにこの家に密着する。
立子は、限界を感じて悩んでいる。伸彦は健康を害してほとんど作家活動をしていない。彼女の才能を信じる気の弱い担当編集者・皆藤(=長谷川朝晴)は、彼女を好きになりながら言い出せない。
艶子は平凡で不誠実な郵便局員(=みのすけ)と実りのない結婚に何とか回路を変えようと努力するが展望がない。
類子はテレビタレントとして成功しつつあったが、不倫騒動で身を隠し10年ぶりで戻ってきて酒に溺れている。
伸彦が死に、行き詰まりの日々の中で、調子が良くて無責任な助手・大鍋が引っ掻き回す日々がほろ苦く、しかし痛烈に批判的ともいえる存在である。
葬儀が終わったあと、かつての後妻・志田潤は新しい男を連れて線香をあげに来る。断る娘たち……
さて今後の家族とその周囲の人たちは、どういう展開をするのか? 狂言回しの映像作家・滝本が、「人間の営みなんてキリがないんです。いつまでもこうして続くのです」と宣言して芝居は突然に閉幕する。
さて、こうみてくると、この物語りは、ある家族の救いの無い顛末を軽い笑いで包みながら提示して見せただけ、ともいえるのだろうか?
シーンの変わり目で普通は暗転になるところを、この舞台は、かすかな黒い影を投影し、それがひび割れのように広がって舞台面全体を覆い尽くすという技法を使った。それがこの救いようのない家族の心象、しかしそれは誰にでもある可能性を暗示して鋭く表現していたのだった。