演 目
「E.T.」を観て
Theater・ラグ・203/Wednesday Theater Vol.3
梶  司


 「E.T」というタイトルから宇宙人が入り込む演劇かと思ったが、何と単純、現代社会の一面を切り取ったものだった。サブタイトルに「Elevator Trick」とあるようにエレベーター内の男1人女1人の寸劇である。
 あらすじをいうと、5連休の前日の夜の退社時、二人の男女が22階と21階の間にエレベーターの故障で閉じ込められる。非常ボタンを押しても通じず、携帯も通じない。天井を空けようとするがそれもうまくいかない。仕方なく脱出を諦め、二人は寝ることにし、二人の会話が始まる。
二人とも同じ会社の社員。女性は秘書課の美女、男性は社業以外にも幼稚園でボランティアをしている好青年。お互いに相手を意識はしていたが、この事件まで話したことはない。話が進むにつれ二人は好意を持っていたことを打ち明ける。
一夜何事もなく朝を迎えて、女性が外部に無線で連絡を取る。男性は無実でしたと報告。実は男は会社の金を着服した犯人で、女性は秘書課の探偵だった。5連休を男は海外に行く計画を立てており、女は国内旅行の計画だったが、二人は旅券を交換し、近くの喫茶店で会うことを約束し、無事地上へ。
 まぁ、ハッピーエンドの清々しい判り易い演劇だったが、少し物足らなさもあった。
その物足らなさとは、エレベーターという密室で芽生えた愛が、男には海外逃亡を諦めさせ、女にはその任務を放棄させたこと。愛は盲目というからそれが現実といえばそれまでだが、二人は果たして約束の喫茶店で会えたのかどうか、と私は余計な想像をする。
女はやはり任務に忠実で男を警察に突き出すとか、男は女も騙し逃亡するとか、男か女か一方のみハッピーの方が私は納得するのだが、後味が悪いだろうか。

松井・註 男が何故会社の金を着服したのか? それを女はどう思ったのかという事実に対する解釈が足りないことがこの批評の弱点であろう。ただもう一つの展開があるほうが現実的であるという指摘は面白いと思う。僕が同行した別人もそれを言っていた。