演 目
映 画/天国と地獄
(1963東宝・黒澤プロ)
観劇日時/07.12.2
文化庁優秀映画鑑賞推進事業
原作/エド・マクベイン 
脚本/小国英雄・菊島隆三・久板栄二郎 
脚本・監督/黒澤明 製作/田中友幸・菊島隆三
撮影/中井朝一・斎藤孝雄 照明/森弘充 
録音/矢野口文雄 音楽/佐藤勝 美術/村木与四郎
劇場ふかがわ市文化交流ホール「み☆らい」

成功者と脱落者

 原作からは、誘拐した子供を取り違えたとしても犯人の脅迫は成立するというヒントだけである、とされている。
貧困の生い立ちから冷酷な経営者として成功し、靴メーカーの重役に成り上がった権藤金吾(=三船敏郎)の息子と間違われて、その息子の遊び相手である運転手(=佐田豊)の息子が誘拐され、当時としては莫大な身代金3千万円を要求される。
極秘の警察の総力捜査が始まる。戸倉警部(=仲代達矢)、荒井刑事(=木村功)、田口部長刑事(=石山健二郎)、捜査本部長(=志村喬)たち、その他大勢。
最初、自分の子供だと思ったとき権藤は、次のステップに絶対必要である自宅豪邸と所有の株券などすべてを担保にした5千万円の中から身代金を出そうとする。
人質が間違いだと分ってから彼は動揺する。今3千万円を出せばわが身の破滅だ。出さなければ運転手の息子の命は無い。
この鬩ぎ合いとその苦悩を知りつつ、何とか犯人を追及しようとする悪戦苦闘の警察側と犯人との電話での必死のやり取りを描くサスペンス。高台でガラス張りの豪邸は犯人に見張られているらしい。
やがて3千万円と引き換えに人質は解放される。その過程は映画で楽しんでください。
だが、冷酷無比な資本主義によって権藤は没落する。運転手は無謀にも自力で、息子の記憶を頼りに犯人の捜索を始める。同時に警察も犯人を追い詰める。この経過もどうぞ映画で。これこそこの映画の魅力なのだから。
巨大ゴミ焼却場の煙突から赤い煙が昇って、これがモノクロの映画でただ一箇所の赤い煙で有名なシーンだ。これがきっかけで犯人が特定される重要な場面だ。
後半、不幸な生い立ちで自分が地獄にいると思っている医学生(=山崎努)の逃亡と証拠隠滅の長い経過はリアリティが弱くいささか退屈だ。
逮捕後、医学生は権藤に面会を求め、地獄の底から天国の豪邸を恨んでいたと述懐する。俺を哀れと思うなよと。二人の対比というテーマだが、これはいささか蛇足……
その他の出演者、権藤の妻(=香川京子)、権藤の秘書(=三橋達也)、その他。