演 目
映 画/酔いどれ天使
(1948年東宝)
観劇日時/07.12.2
文化庁優秀映画鑑賞推進事業
脚本/植草圭之助 脚本・監督/黒澤明 
製作/本木荘二郎 撮影/伊藤武夫 照明/吉沢欣三
録音/小沼渡 音楽/早坂文雄 美術/松山崇
劇場ふかがわ市文化交流ホール「み☆らい」

時代の変わり目の明暗

 戦後の混乱期、野獣のようなやくざの〈=三船敏郎〉と、手の早い酔っ払いだけど正義感の強い町医者〈=志村喬〉の奇妙な友情物語。
当時は死の病と恐れられた肺結核に冒された、三船・やくざは、恐怖の余り医者の言うことを聞かず、酒と博打に荒れ狂う。
何とか救おうと引き取って看病する医者。やくざの兄貴分〈=山本礼三郎〉の暴力によって犯されていた女〈=中北千枝子〉は、その兄貴分を恐れるのと、医者に迷惑が掛からないためと、その〈山本〉に対する女心も微かにあったりして迷い困惑する。
断固、接触を禁じる医者。経緯を察した〈三船〉は、密かに瀕死の身を引きずるようにして〈山本兄貴分〉の元へと赴く。
〈山本〉と〈三船〉の死闘は圧巻だ。女〈=木暮実千代〉は以前〈三船〉の愛人だったが、今は〈山本〉の囲い者で、その部屋の三面鏡に二人の刃物を使った決闘が三つの映像で映し出される。そして廊下に転がり出た二人は、ペンキの缶をひっくり返し、その粘りつき滑る床でペンキ塗れの、まるで歌舞伎の『女殺油地獄』のような悲惨な殺し合いを演じる。
女学生の〈=久我美子〉は医者の言いつけを守って、死の病から生還する。その朗報をもって医者を訪れた〈女学生・久我〉は、約束の餡蜜豆をご馳走になる。そのとき居合わせた酒場の女〈=千石規子〉は、〈三船・やくざ〉に片想いしていた。彼女は、彼〈三船〉の死で田舎へ帰る決心をし、餡蜜豆の誘いを断る。
医者と女学生が腕を組んで去ると、残った〈千石〉の周りは、ゴミでどぶ泥沼と化した水溜りからメタンガスの気泡がブクブクと湧いていたのであった。滅びる古いものと明るい希望とが交錯する時期の重い映画である。
そのほか、笠置シズ子・殿山泰司・飯田蝶子・清水将夫などの出演。しかも50年以上も前の若いころの顔だ。懐かしいなあ、一瞬、誰だか分らなかったりする……