演 目
あっちこっち佐藤さん
観劇日時/07.11.21
劇団名/イレブン☆ナイン
公演回数/道内巡回公演2007年
原作/レイ・クーニー『ラン・フォー・ユア・ワイフ』
翻訳/小田島雄志・恒志 脚色/11☆9
演出/納谷真大 音響/三浦淳一 照明/広瀬利勝 衣装/ガズ(福来美々)
製作手伝い/角田亜希 
スペシャル・サンクス/秦建日子・福田雅之
劇場/深川市文化交流ホール「み・らい」

笑劇の意味するもの

 サッちゃん(=森上千絵)とカツちゃん(=久保明子・Wで松本りき)の二人の女性を愛してしまったタクシードライバーの佐藤ヒロシ(=水津聡)は、それぞれに内緒で二つの家庭を営む。
職業柄、時間のやりくりは大丈夫で、しかも彼は時間に厳格だから何とか騙し通せて幸せな生活であった。
ある日、偶然の事故の被害にあってタイムスケジュールは目茶苦茶になる。隣に住む佐藤太郎さん(=久保隆徳)は、ヒロシに弱みがあって、たとえ火の中水の中、全総力を挙げてヒロシを庇う。
サッちゃんの住む所轄・北署の巡査(=杉野圭志)も、カッちゃんの住む所轄・南署の巡査(=東誠一郎)も佐藤さんだ。おまけに事故の取材に来たオカマの新聞記者(=大山茂樹)までも佐藤さんだ。
ここまで登場人物が佐藤さんばかりというのも、重婚が認められているのも荒唐無稽だが、言い訳としては、佐藤さんは日本人に一番多い姓だからあり得る、社会保険庁だっていい加減なんだから重婚の受付だってあり得るということだ。
しかしこの舞台はそういうことを考えている隙のないほど展開にリアリティがあって、つい納得してしまう力技だ。
次々に襲い掛かる難関を、ヒロシと太郎さんがでたらめの言い訳で潜り抜け、次第に抜き差しならなくなっていくのを、嘘に嘘を重ねて突破していく状況を客席の哄笑・爆笑を誘い出して展開する。
この展開は、三谷幸喜の戯曲によくある、絶体絶命から何とか言い逃れて次々に新たな崖っぷちに自業自得で落ち込んでいく人や集団を描いているのに似ている。
単なるナンセンスな笑劇と思わせて、実は無責任に言い抜けをして恥じない昨今の責任ある政治家や経営者たちの言動を痛切に告発しているのだ。
「記憶にございません」を連発する政治屋、偽名を使ってたかる官僚、消費者を裏切って恥じない経営者、全部頭に「悪」がつくこれらの人たちが、ヒロシだとしたら女たちは一体誰なんだろうか?
一旦収まってから一年後、二人の女は実はお互いに了解して男を泳がせていたと分る。そのほうがお互いに幸せだからという理由だが、それはどうなんだろう? 
男なんて小心で女の掌の上で苦しんでいるだけさ、ということかもしれないが、やはり二人の女を同時に愛することの肯定に考え込んでしまう。そこから抜け出せないことはやはりこれは彼にとって不幸なことなのかもしれない。
このラストシーンはない方が良くはないか。観た人それぞれの想像に任せた方が良いのじゃないだろうか?
設定にかなり無理がありながら、それを感じさせないスピードある力技と、日本のそれも札幌に舞台を移した技巧に無理がなく素直に楽しめたのであった。