演 目
あーさんと動物園の話
観劇日時/07.11.3
劇団名/飛ぶ劇場
公演回数/創立20周年記念公演
作・演出/泊篤志 美術/柴田隆弘 照明/乳原一美 
音楽/泊達夫 音響/杉山聡 衣装/内山ナオミ
舞台監督/森田正憲 web情宣・パンフレット製作/藤原達郎 宣伝美術/トミタユキコ 制作/北村功治
劇場/コンカリーニョ

仄かな曙光

 人生をドロップアウトした30過ぎの男・あーさん(=寺田剛史)の物語。中学・高校・大学と、何となく演劇をやってきた男。あるとき事故で身内が全員死亡する。
それ以来、男はアパートの一室に閉じこもってギターを弾き自作のしょうもない歌を歌って侘しく20年を送っていた。
その男の今までの人生を、同居のネコ(=宗像秀幸)、劇団を投げ出したかつての先輩(=木村健二)、中学の時の初恋の女性(=門司智美)、もちろん大勢の身内たちも含めて描かれる。
彼は大事なものに近づくとなぜかその大事なものが消え去るという経験から、一番大事に思っていた祖父の危篤の病床を見舞うことを頑なに拒否したことがすべてを拒否することの原点であったようだ。しかも、そのとき見舞いに行った家族一同が交通事故死したというトラウマがあったのだ。
大事なことが話題になりそうになると、すかさず食べ物を出して関心を逸らす男……大事な話題を簡単に転回して食べ物に夢中になる人たち……精神と肉体との無意識の相克。
大事なときに豪雨が襲う。いつも豪雨が襲ってくる。男の心象風景か。
ラストは、彼が30年以上も住み慣れたアパートが全員によって解体され、男はその廃墟を、出航する船に見立てて、可愛がっていたたくさんの動物たちと一緒に豪雨の中を何かに向かって出立する。まるでノアの箱舟のように……
大勢の身内たちが様々な登場人物に扮したり、ネコが従者のようであったり、時間が過去と現在とを行ったり来たりして最初はちょっと面食らうが、本当に住めそうなアパートを廻り舞台にして、裏側の男が引き篭もっている押入れの中を見せたり、凝った仕掛けが満載だ。
エネルギッシュでサービス満点で、そのくせ飄々とした可笑しみの横溢した魅力的な舞台であった。
その他の出演者は、父(=有門正太郎)・母(=内山ナオミ)・従兄弟(=葉山太司)・従姉妹(=大畑佳子)・妹(=藤尾佳代子)・
伯母さん(=内田ゆみ)・大家さん(=鵜飼秋子・桑島寿彦W)・警官(=権藤昌弘)。

なお、この『飛ぶ劇場』というのは、九州・福岡市を拠点に活動する歴史の旧い劇団だそうで、今回、札幌初公演とのことである。