演 目
Moments 07
観劇日時/07.10.27
Dance Theater LUDENS 2007 Production
振付・演出/岩淵多喜子 振付補佐/太田ゆかり
共同振付・出演/太田ゆかり・梶原暁子・椙本雅子・藤田桃子・岩淵多喜子
照明/岩品武顕 照明操作/松崎容士 美術/杉山至
音楽/Jean-Baptiste Luly Franz Peter Schubert Antonio Vivaldi
音響/牛川紀政 舞台監督/山田潤一 衣装/斉藤絵美
制作/布上道代・平岡久美 宣伝美術/江尻ひかる
劇場/コンカリーニョ

調和と軋轢または破壊

 モーメントというタイトルが何を意図しているのかは分らないが、1時間半に亘るこの舞台の物語はとても分かり易い。高度な技術と止まることのないエネルギーで強烈に惹きつけるダンスだ。
全体の印象は人間同士の調和と、裏返しの軋轢と破壊の象徴である。舞台は一面に缶飲料の空き缶が転がっている。
真っ黒の背景には、2b四方くらいの白く細い枠が三個、整然と調和よく飾られて、その合間合間に流木がさり気なく立て掛けられている。すでに人工的な調和と、軋轢と破壊と再生との生命力を象徴しているかのようだ。
鋭い身のこなしの女が出て、一つ一つその缶を立てる。次に出た女が折角立てた缶を蹴散らす。柔軟な身のこなしで二人のダンスでのバトルが繰り広げられる。もう一人の女が麻袋で蹴散らした缶を集めていく。コミカルな表現なのに調和と軋轢または破壊の先触れだ。
場面は変わって、ダンサー四人とパントマイマー一人、全員女性が、ある時は1対4であるいは2対3となり、融和し対立して整然と迫力あるダンスを繰り広げる。
こんな場面がいくつか続くが、細部は忘れている。印象に残ったシーンを言うと、まず一人の女が一つの空き缶を立てる。グッと床面を引くと缶に入っていた白い粉がグランドに引かれたコースの白線のようにクッキリと缶の直径を太さとした線が現れる。
女は、床面を這うように転がるように踊ると、その脚・腕・頭・尻など体が床に接した部分を囲むように白線を延々と舞台上手手前から下手奥まで様々な曲線・直線として描かれる。それはまるでこの女の生きてきた命の軌跡でもあるようだ。
粉が尽きると命の終焉のように線は果敢なく消える。女は自分の命の軌跡を蹴散らし荒れまくって踊る。別の女が出て箒で粉の残骸を冷然と片付け、その箒を使ってコミカルに踊る。箒の女は白線の女をどう見ているのか?
天井から吊るした麻袋から、同じような白い粉が一条の線のように降り注ぐ。床に落ちたその粉は奇麗な円錐状の形を作り上げる。と、女が出て愛しむように山に立ったかと思う間もなく、猛然と踊り狂い、粉の山は乱れ、全員登場して粉に塗れてしかし整然とエネルギッシュに踊る。
5人それぞれが、個性的にコミカルに競演する場面では客席から盛んに笑声が起きるが、具体的な説明はできない。詳細を言葉では言い尽くせない。
バロック調の楽曲とオペラのアリアの快感に対して、耳障りで不快な電子音が交互にBGMとして聞かせる。
はっきりとした物語性と鍛え上げられた高度なダンス技術、そして終始精力的なコンテンポラリィダンスに魅了された舞台であり1時間半はあっという間だった。