演 目
EXCHANGE
(実際のタイトル表記は文字を上下逆さまにし、一部をさらにひっくり返している。奇をてらっているような感じである。)
観劇日時/07.10.19
劇団名/指輪ホテル
(スタッフは普通の公演のようには記載されていないので割愛する)
劇場/コンカリーニョ

ナレーションと肉体との分裂

 具体的なタイトルから想像して、いったい何をどう変換するのかという期待がまず先行する。男(=川口隆夫)と女1(=尹明希)女2(=羊屋白玉)の三人が織りなす人間関係の綾のような出発だった。
最初は鳥や縞馬の被り物の登場人物がデスコミニュニケーションの様相を描写しているような運びだ。激しいダンスの交錯で進む。このダンスは、人間の限界を超えているような一種象徴的な動きで圧倒され、何かを期待させる。
ところが一転して、ある女の出自とその人生の懐疑がモノローグ風に展開する。かと思うと「あなたのダンスは素晴らしい、輝いている」と称賛するけれども相手は懐疑的であったりする。
全体にナレーションやモノローグそして字幕が説明的であり、ダンスとシンクロされないので、分かりづらい。というか理解を拒否しているような感じだ。
最初、観客はダンスから受け取る感覚を自分の感性で再構築しようとするのだが、言葉があまりにも独断的で説明的なので戸惑ってしまう。
「帽子を忘れたから取りに戻ります」とか「オッパイがコロコロと痛む」とか象徴的なセリフが呟かれて、そこから何かを感じられるのだが、そういう印象的な断片はその場限りで前後に繋がらない。
「帽子…」は日常への回帰欲求のようだし、「オッパイ…」は心の痛みだろうか? と思う瞬間に場面は次へと移っていって慌ただしい。結局、何が残ったんだろうか?
ラストで女が呟くのは「新しい命へ繋げる」というような意味だったような気がする……ということは命を交代するチエンジするということだったのかしら?
あまりにも言葉に頼りすぎて、しかも三人の肉体がその言葉と乖離していて自己満足の世界に入り込むので感情移入の難しい舞台であった。
さて終演、カーテンコールが終わって客席の明かりが点くと同時に始まったBGMは、編曲されていて最初はちょっと分らなかったが、何と「エデンの東」であった。ジョン・スタインベック原作、エリア・カザン監督、ジェームズ・ディーン主演で一世を風靡したあの名作の主題歌である。
この映画の主題は、父と息子の断絶と父の死の間際の微かな心の交流であった。意図したのか偶然かは知らないけれども、僕にはこの終演後の音楽がすべてを語っているような気がした……